
(あ、また見てる……)
放課後、家庭科室で三ツ谷の事を待ちながら時間を潰していると、それは目についた。
同じ東卍のメンバー、三ツ谷が部長を務めていてる手芸部。暴走族をやってるクセに手芸が得意という一風変わった男だが、面倒見がよく部員の女子たちにも人気があるのは俺も知っている。
(のヤツ、嬉しそうな顔してんじゃん……)
ケータイをいじるフリをして三ツ谷と話している彼女を盗み見しながら、オレは内心苦笑した。
三ツ谷に話しかけられたは頬を赤くし、恥ずかしそうに俯きながら話してる。せっかく三ツ谷と話が出来てんだから、ちゃんと顔を見て話せばいいものを。
三ツ谷は彼女の気持ちになんて一ミリも気づいていない様子で、部長らしく彼女の質問に優しく受け答えしていた。あんな優男に見えても、夜になれば特攻服に身を包み、東卍の弐番隊を率いてるんだから笑える。
オレがと初めて話したのは、何度か部活をしてる三ツ谷を迎えに来た時だった。
特に用があったわけじゃない。いつもツルんでたパーちんが捕まってからの暇つぶしみたいなもんだった。
だから同じクラスで隣の席の女が手芸部だったなんて知らなかったし、まさか三ツ谷に惚れてるなんてことも知らなかった。
「林くんと三ツ谷部長って同じチームなのよね」
いきなりあいつに話しかけられ正直驚いたが、そこからクラスでも三ツ谷のことでとよく話すようになった。
オレとパーちん、そして三ツ谷が暴走族だってのはこの学校のヤツなら全員知ってる。人当たりのいい三ツ谷はともかくとして。
口も態度も悪いオレとパーちんは学校の中じゃ浮いた存在だ。だから好き好んで話しかけて来るヤツなんてこれまで殆どいなかった。
なのにあいつは平気な顔でオレに声をかけ、可愛い笑顔を無防備に向けてくる。最初はそれが少しウザかったのに、今は受け入れてるオレがいて、むしろあいつと話すのが――。
「ちょっと林くん!」
ボケっとを見ていたオレの思考を一刀両断したのは、この手芸部の中で一番口うるさいオレの苦手な女だった。
「安田……さん」
呼び捨てしそうになった途端、怖い顔で睨んでくる安田に慌てて"さん"を付け足した。
「まーた部外者のクセにウロウロして。邪魔だから出てってよ。言ったでしょ?部長以外の不良は嫌いだって」
「あ、い、いや……ウロウロはしてねーだろ?大人しく待ってっからさ……」
オレはこの安田とかいう部員が苦手だ。何故なら反撃出来ないからだ。
男ならなんぼでも言い返せるが、女に怒鳴るほどオレだって腐っちゃいない。
「あ、安田さん。部長が呼んでましたよー」
「え?ほんと?さん」
そこへ救世主が現れた。はオレが彼女を苦手だと分かっているから呼びに来てくれたようだ。おかげで安田は三ツ谷のところへ飛んでいく。
多少の小言で済んでホっとしていると、が笑いながらオレの方へ歩いて来た。
「感謝してよね、林くん」
「ああ、サンキュ。助かった」
「林くんってほーんと安田さんに弱いよね」
「だってアイツ、怖ぇーじゃん」
は軽く吹き出すと、「林くんのそういうとこ嫌いじゃないよ」と微笑んだ。
"嫌いじゃない――。"
そう言われて不覚にもドキっとしてしまう。
「そういう……とこって何だよ」
「だから、本当なら言い返せるのに敢えてそうしないとこ」
「……」
何だろう、胸の奥がほんわか優しい気持ちになってくる。
でも次の瞬間、やっぱりはいつものように三ツ谷の話を振ってきた。
「ねね、ちょっと聞きたいんだけど……三ツ谷部長って、どんな子がタイプなのかな。彼女とかいるの?」
「……はあ?何でオレが三ツ谷の女のタイプや彼女のことまで知ってると思うわけ?」
「だって林くん、学校以外の三ツ谷部長のこと知ってるじゃない」
「だからって女のタイプまで知るかよ。つーか興味ねーし、あいつの女関係」
「えーじゃあ聞いてみてよ」
「何でオレが?!自分で聞きゃいーだろが。オレが聞くよりが聞いた方が三ツ谷も答えてくれんじゃね?」
「それじゃあ告白してるようなもんじゃない」
「あ?そのまま好きだって言やーいいじゃん」
「それが出来ないから林くんに頼んでるんじゃないの!せめて彼女がいるかいないかだけでも聞かないと告白する勇気すら出ないもん」
頬を膨らませながら、彼女はジトっとした目でオレを睨んでくる。
オレはこいつのこの顏に……弱い。
「ったく……しゃーねーなー」
「え、聞いてくれるの?」
「……聞けたらな」
「ありがとう!林くん!このお礼はちゃんとするから」
なんて言いながら、彼女が本当に嬉しそうな顔をするから嫌になる。全く、人の気持ちも知らないで。
好きになった時点で失恋は決定してたわけだから、仕方ねーけど。
でも、きっとオレはこいつに何かを頼まれたら、また同じように応えてしまうんだ。
こんな風に、彼女の嬉しそうな笑顔が見たいから。