京都校姉妹交流会④
「……この馬鹿! オマエは何して……っつ」
「ご、ごめん、恵……でも起き上がっちゃダメだよ、まだ完全に傷は塞がってないんだから」
特級呪霊と呪詛師が起こした突然の高専襲撃。その全てが終わったあと、俺の知らないところでに起きてたことを知った時、怪我してるのを忘れて思わず上体を起こす。けど半べそ状態の彼女に無理やりベッドへ倒されてしまった。
「ったく……何でオマエはいつもそう危ない方へ行こうとすんだよ……」
痛む腕を額へ乗せ、つい深い溜息を吐く。特級呪霊と戦って大怪我をした俺を心配して駆けつけてくれただが、俺以上にヤバい状況になってたなんて、想像するだけで心臓が縮むような感覚になった。
「それは……ごめん。悲鳴みたいな声が聞こえた気がしたから五条先生に報告する前に確認だけでもって……ちょっと外に出るくらい平気だろうって思ったわたしがバカでした……」
は俺が言わなくても十分に反省してるようだ。さっきまでは俺の怪我を心配して泣きじゃくってたが、今はしゅんとした顔で落ち込んでいる。
きっと彼女が聞いた悲鳴というのも、侵入した呪いに殺されたという術師、或いは補助監督のものだろう。その直後にもソレと遭遇した。もし東堂が道に迷い、付近をうろついていなければ彼女は今頃……。
「……恵?」
思わずの手を握り締めたのは、自分の知らないところで彼女を失っていたかもしれないと考えただけで全身の毛が逆立つくらいに怖くなったからだ。そんな恐怖に体が素直に反応して、胃の辺りがずん、と重くなった。
「ど、どうしたの……? 恵……どこか痛い?」
「ちょっと胃が……いや。とにかくが無事で良かった」
俺の顔を覗き込む彼女の目は泣きすぎたせいで真っ赤に充血している。恐ろしい目にあっただけじゃなく、俺までこんな状態じゃきっと不安で仕方ないはずだ。もっと気の利いた言葉をかけてやれたらいいのに、今の俺は彼女の手を握ってやることしか出来ない。
「いやぁ。マジでに何もなくて良かったよ」
「ほんとよねー」
「……っ?」
いつの間に来たのか、の背後には虎杖と釘崎がニヤニヤした顔で立っている。その手には何故かピザの箱があった。二人に見られたことで、慌てて握っていた手を離す。
「あ、野薔薇ちゃんと悠仁!」
「大丈夫ー? ってより彼氏の方がズタボロかー」
「……チッ。何しに来たんだ、オマエら」
相変わらず憎たらしい態度での隣に座った釘崎は「何って見舞いにきてやったのよ」と偉そうなどや顔で言い放った。虎杖も「伏黒の意識が戻ったって五条先生から聞いてさあ。あ、これお見舞いね!」とピザの箱を俺の腹の上に置く。まあ、食欲をそそられる匂いだが、怪我人の見舞いに普通いかにもデリバリー感満載なピザを持ってくるか?
そんな疑問を感じつつも、ちょうど腹が減ってたとこだ。そこは在り難く頂いておく。
「しっかしまで襲われかけたなんてなー」
「う、うん……」
虎杖はにもピザを分けてやりながら、「マジ、無事で良かったよ」といつもの明るい笑顔を見せた。
「しかも、呪いが逃げたのはあの東堂が通りかかってくれたおかげなんだろ? アイツ、俺んとこ来る前に迷子になってたんかって笑ったけど、そのおかげでが助かったなら感謝しなきゃな」
「うん、まあ……あの場に先輩が来た時は驚いたけど」
は青い顔をしながら小さく頷いた。確かに俺たちを襲った呪いの強さを考えれば、そんな状況でが無事だったのは奇跡に近い。虎杖が東堂に聞いた話じゃ、かすかに残された残穢を見る限り、俺たちが遭遇した呪いと同等かそれ以上だったんじゃないかってことだ。東堂は気に入らない奴だが、虎杖が言った通り、そこは素直に感謝をしなければと思う。
「で、どんな呪いだった? 俺や伏黒が戦ったのは何か木の精霊みたいな奴だったんだよなー。が遭遇したのも、あの呪いと階級は近いんじゃないかって東堂が言ってたけど」
「え……っと……そ、それがよく覚えてなくて……」
虎杖の問いには少し困った様子で口ごもった。小さな違和感を覚えたのは、呪いの話を聞かれた瞬間、彼女の目があからさまに泳いだからだ。
は素直すぎる性格だから、基本嘘が下手だ。もし何かを隠そうとしたりすると、こんな風に視線が定まらず右へ左へ泳いでしまうクセがあるのを、俺は知っている。
「め……目瞑っちゃってたし……」
「そっか。にしたら突然のことで怖かっただろうし、呪いなんてまともに見れねえよな!」
「う、うん……凄く怖くて」
「だよなー!」
「……」
虎杖も同様、バカがつくほど素直な性格だから、彼女の言葉をそのまま信じたようだった。まあ、この場は俺も気づかないフリをしておく方が得策かもしれない。彼女がその呪いのことを隠そうとするのは、何かしらの理由があるはずだ。俺もさっき目を覚ましたばかりで、その瞬間ギャン泣きされたから彼女に詳しい話を聞けていない。
(二人になった時に聞いてみるか……)
ひたすらピザを食いつつ、思案していると、釘崎が何かを思い出したように「そう言えばさ」と二人の会話に割り込んだ。
「あんた、いつの間にあのゴリラと仲良くなったのよ」
今までに笑顔を向けていた虎杖は、その問いを受けた途端、へにゃりと眉を下げて困り顔になった。因みに「あのゴリラ」とは東堂葵のことだろう。
「いやあ……仲良くなったっつーか……記憶はあんだけど、あん時は俺が俺じゃなかったというか……」
「何あんた……酔ってたの?」
歯切れの悪い虎杖に対し、釘崎が呆れ顔で言い放つ。さすがの虎杖もそのツッコミにはショックを隠し切れないようだ。
「釘崎は俺があの状況で酒を飲みかねないと思ってるの……? ショックなんだけど」と見るからにへこんでいる。そこで何を思ったのか、が笑顔で身を乗り出した。
「悠仁はお酒なんか飲まなくてもテンション高いもんねっ」
「え……そ、そーお?」
「おい、……それフォローになってない」
「えっ」
見かねて俺も突っ込むと、は本気で驚いている。こういう天然さがコイツの可愛いところだ。虎杖もそれでなごんだのか、すっかり立ち直った様子で俺に笑顔を向けた。
「でもまあ、伏黒の怪我が大したことなくて良かったなぁ。ピザも食えてるしなぁ」
「……いや、もっと消化にいいもん持ってきてくれ」
呑気にピザを頬張る虎杖に、さっきから引っかかっていたことを伝えておく。そもそも俺だってさっき意識が戻ったばかりで寝起きみたいなもんなんだから。まあ……結果として食っちまってる身だから文句は言えないが。
……なんて思ってたら、つかさず釘崎に「文句言うな」と突っ込まれた。
「あの時……呪力カラカラだったのが逆に良かったみたいだ。芽を取り除いた時点で家入さんが治せる程度だった」
「へえ、そういうこともあんのか」
虎杖は不思議そうな顔で頷いてるが、あの呪いとがっつり戦ったクセに、相手の術式の類は全く分かってないらしい。案の定、釘崎に「あんた、そいつと戦ったんでしょ?」と呆れ顔で突っ込まれている。まあ、虎杖はこういう奴だから、細かいことは気にせず本能のままに戦ってたんだろう。
でも、だからなのか。昨日までの虎杖とは明らかに違うと感じていた。
「虎杖」
「……んぁ?」
俺が声をかけると、虎杖は三枚目のピザにかぶりつこうとしていた手を止めた。
「オマエ、強くなったんだな」
「ん?」
「……あの時、俺たちそれぞれの真実が正しいと言ったな……」
”あの時”とは、虎杖が一度命を落とした少年院でのことだ。
「その通りだと思う。逆に言えば、俺たちは二人とも間違ってる」
「あ?」
「答えもない問題もあんでしょ。考えすぎ。ハゲるわよ」
釘崎が呆れたように俺を見る。確かに釘崎の言うことも正しい。
「そうだ。答えなんかない。あとは自分が納得できるかどうかだ。我を通さずに納得なんて出来ねえだろ。弱い呪術師は我を通せない」
「……恵」
しばし沈黙が流れる中、が心配そうに俺を見つめる。安心させるように小さな頭へ手を置き、真っすぐに虎杖を見据えた。
「俺も強くなる。すぐに追い越すぞ」
そう言い切った俺を見て、虎杖は一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに明るい笑顔で笑った。宣戦布告みたいな言葉になったのに、虎杖はどことなく嬉しそうで、コイツのこういう性格が少し羨ましいとさえ思う。俺がもし虎杖に同じ台詞を言われたとしたら、きっとこんな風には笑えない。
虎杖はとどこか似ている。心の奥がまっさらで、凄く綺麗なところが。
「はは、相変わらずだな、伏黒は」
「私抜きで話すすめてんじゃねーよ」
案の定、蚊帳の外にされたと感じたらしい釘崎が、不満顔で文句を言った時だった。
「それでこそブラザーの友達だな」
「「「「……っっ?!」」」」
いつの間に来たのか。目の前には東堂葵のゴツイ顔。何故か満足げにうんうんと頷いている。その存在に気づいた時、俺だけじゃなくその場にいた全員の時が止まった。
……いや、一人だけ猛ダッシュで部屋の外へ飛び出して行った奴がいる。虎杖だ。
「どこへ行く?! ブラザー!!」
当然のように東堂も虎杖を追いかけようと立ち上がる。だが、その時が予想外の行動に出た。
「待って下さい、東堂先輩! 」
「うぉ!」
部屋の窓から出て行こうとした東堂の腕をガシっと掴んで引き留めたは「ちょうど良かった」と笑顔で奴を見上げた。俺と釘崎はただポカンとするしかない。東堂葵の顔が見るからに青くなったからだ。こうしてみると例の件以来、本当に彼女のことが苦手らしい。
「な、ななな何だい? ちゃん……俺はブラザーのところへ――」
「あの……昨日は本当にありがとう御座いました。もう一度ちゃんとお礼を言いたかったので」
「……へ?」
突然お礼を言われた東堂葵は鳩が豆鉄砲的な顔で固まった。
「五条先生から言われたんです。高専を襲撃したのは特級って呼ばれる危険な呪いだったって。もしあの時東堂先輩が来てくれなかったら、わたしは今頃死んでたと思うので、だから改めてお礼を言いたくて」
「い、いや……あれは単なる偶然で……」
まあ話によれば迷子だったっていうしな、この人。
それを想像すると虎杖同様、吹きそうになったが、だけは真剣な顔だ。
「それでも助かったのは事実だし、やっぱり先輩のおかげです。先輩はわたしのこと嫌いだろうけど……わたしは本当に感謝してるので、それだけは伝えたくて……」
こういう時のは俺も驚くくらいに物怖じしない。自分が正しいと思ったことをきちんと伝えられる強さがある。例え相手が自分のことを嫌っていると感じていても、彼女は全く気にしない。
ただ東堂はハッとした様子で息を呑み、急に深い溜息を吐いた。
「言っておくが俺はちゃんを嫌ってなどいない」
「……え?」
「むしろ彼氏思いのいい子だと思っている」
「東堂先輩……?」
何かおかしな方向に話が向いてきた。黙って見守っていた釘崎が何かを言いたげな視線を俺に向けている。ってか、そのニヤケ顔はやめろ。
「それに俺にビビらず説教かましてきた女の子はちゃんが初めてだ。だから、まあ……何と言うか認めている。色んな意味で」
「はあ。あ、ありがとう御座います……?」
予想外の答えに戸惑ったのか、も複雑そうな顔で礼を言っている。まあ、俺が思うに東堂の言った言葉は本当だろうが、だからこそ、どう接していいのか分からず、扱いに困るってのが本音ってところだろう。
「というわけで俺はブラザーを追わねばならないから行く。ちゃんも無茶な行動はもうするなよ」
「は、はい。十分に反省してます」
「なら、いい。じゃあな」
東堂は少しホっとした様子で窓から出て行こうとする。それを見て俺も言わなきゃいけないことを思い出した。
「東堂さん」
「……ぬ」
行こうとしたのを再び引き留められたせいか、東堂はずっこけそうになりつつ、仏頂面で振り返った。まさに苦虫を潰したような顔だ。そんなに虎杖のあとを追いたいのか?
「何だ、伏黒! 俺は忙し――」
「……こいつのこと助けてくれて感謝してます」
言いながら軽く頭を下げると、青くなってた東堂の顔が一転、真っ赤になっていく。
「……ぐっ。だ、だから、それは偶然……っ」
「それでも、です。あんたがいなきゃはきっと殺されてた」
「……チッ。似た者同士のバカップルめ」
東堂は一瞬呆気にとられた顔をしたが、深い溜息と共に首を振る。地味に耳も赤い。もしかしたら、この人は他人から感謝されることに慣れてないのかもしれない。でも最後に皮肉めいた笑みを口元へ浮かべると「今度はオマエが守ってやれ」という言葉を残し、今度こそ外へ飛び出していった。
「はぁ、変なヤツ。あれで特級相手に無傷で済むくらい強いなんてねー」
今まで黙って見守っていた釘崎が苦笑気味に呟く。その辺は俺も同じ意見だが、一度でも戦った身としては納得いく結果だと思う。単に強いだけじゃなく、場数を踏んだ経験と、それに……
「あの人、ああ見えて頭の回転はかなり速いと思うぞ」
「ハァ? 脳筋タイプにしか見えないけどー?」
釘崎はゲラゲラ笑ってるが、俺の勘は当たってる気がする。もしかしたら虎杖が短期間で成長したのも、東堂と共闘したおかげかもしれない。
「まあ伏黒は今日の休みを有効活用して体を休めなよ。犠牲者が出たらしいから交流戦はどうなるか分かんないけど、もし続けるなら明日は個人戦でしょ」
「ああ、分かってる」
「え、野薔薇ちゃん戻るの?」
椅子から立ち上がった釘崎を見上げながら、が声をかけると、釘崎は欠伸を噛み殺しながら頷いた。
「うん。ピザ食べてお腹いっぱいになったら眠くなってきたし」
「そっか。あ、お見舞いありがとね」
「いいって。半分はやられた伏黒を笑いに来ただけだし」
「……うるせぇぞ、釘崎」
は冗談だと思って笑ってるが、今のは半分本気だろう。ったく、相変わらずムカつく同級生だ。
釘崎は俺に向かって舌を出すと、には笑顔で手を振り、きちんとドアから帰って行った。何となくホっとしたのは、俺もこういう状況に慣れてないせいかもしれない。津美紀や以外の人間に、心配されたことがなかったから。
「恵、怪我したとこ痛くない?」
あいつらが残して行ったゴミ――持って帰れよ――やら、ピザの空き箱を片付けながら、は心配そうに俺を見た。皆の前じゃ明るく振る舞ってはいたが、まだ気になってたらしい。
「家入さんに治療してもらったし、寝てる分には痛みもほとんどないよ」
「そっか。良かったぁ……」
ベッドの端へ座り、ホっとしたように笑うの手を軽く引き寄せれば、簡単に腕の中へ納まる。何だかんだ言って、コイツの温もりに触れた時が、俺には一番の癒しであり、薬にもなるんだということを、彼女だけが気づいてない。
「オマエこそ……もう危ないことはすんなよ」
「う……うん。分かってる」
「俺が生き残っても……が死んだんじゃ生きてる意味なくなるし」
「恵……」
「また、すぐ泣く」
俺を見上げている丸い瞳に涙が溢れていく。コイツの泣き顔を見るのは何度目だろう。もう覚えてないくらいの時間を一緒に過ごして来た。これまでの存在にどれだけ救われてきたことか。津美紀が呪われた時も、きっとがいなければ耐えられなかったと思う。だからこそ、彼女が無事で良かったと心の底から思った。
「ん、恵……窓開けっ放し……」
軽く唇を寄せると、窓が全開になっているのが気になったらしい。恥ずかしそうに離れていく。大胆かと思えば、ものすごくシャイだったり、ほんとには色んな顔を俺に見せてくれる。
ただ、顔を赤くしながら視線を泳がせてる顔を見ていたら、ふと思い出した。
「そういや……オマエ、さっき虎杖に嘘ついたろ」
「……え?」
「オマエが遭遇した呪いの件だよ」
「え……っと……」
「図星か」
は分かりやすいくらいに動揺し、俺からも視線を反らしていく。
「さっきは覚えてないなんて言ってたけど、ほんとは覚えてんだろ。何で隠すんだよ」
「……そ、れは……その……」
「俺にも言えないのか?」
「う……」
その一言が効いたらしい。は「悠仁には絶対内緒にしてね」と前置きをして、遭遇したという特級呪霊について説明し始めた。
「マジか……虎杖が死んだふりをしてた間の任務でそんなことが……」
「うん……わたしも五条先生に遭遇した呪いの件を報告した時、簡単に事情を教えてもらって驚いた」
「で……虎杖にとって、そのツギハギ野郎はデカい地雷原だってわけか」
「そうみたい……先生も七海さんから人型のツギハギ呪霊の話は聞いてたらしくて、悠仁はその男の子を救えなかったことが相当こたえたみたいなの……。だからツギハギの呪霊が高専に来てたことは内緒にしておいてくれって言われて……術師の人や補助監督の中にもソイツに襲われた人が数人いるみたいだし、悠仁が知ったらまたショックを受けるかもしれないから」
「……まあ、その方がいいと俺も思う」
虎杖の性格を考えれば、もしその呪いがここへ来てたと分かった瞬間、どう動くか分からない。普段はヘラヘラしてるし、本気で怒った姿なんて見たことないが、そこまで感情移入していた人間を殺され、その呪いに対してどういう感情を抱いているかくらいは想像がつく。
――むしろそのおかげで誰にも負けたくねんだわ。
あの言葉はそういう意味も込められてたのか。
ふと団体戦前に虎杖と話した時のことを思い出す。何となく虎杖の変化を感じてはいたが、の話を聞いてやっと腑に落ちた気がした。
「恵……悠仁のこと心配?」
「あ? 何で俺が」
アレコレ考えていると、が含み笑いを浮かべながら俺の顔を覗き込んでいる。
「だってそんな顔してるもん」
「別に心配なんか……してない」
「あ、嘘ついた。恵は困ると変に言葉が詰まるんだよねー」
「うるせぇな……ってかだって目が泳ぎまくるくせに」
「う……そうでした」
互いの弱点やクセは把握済みだから不毛な言い合いになってる気がするけど、今はこういう当たり前の日常に救われてる気がする。大切な存在が傍にいて、こうして一緒に笑い合える時間が何よりも幸せなんだと、全部彼女が教えてくれた。
「ってかオマエ、マジで危なかったろ、それ」
「え?」
「そのツギハギ野郎だよ。触れて魂をいじるって術式なんだろ?」
「あ、そ、そっか……もしあの時アイツに触れられてたら……」
その瞬間を思い出したらしい。の顏がみるみるうちに青ざめていく。そういう俺もまた、余計な想像をしたせいで胃がキリキリと痛みだす。何とも素直な反応だ。
「やっぱり……を高専に入れてもらわなきゃ良かったよ……」
コイツを危険な目に合わせるくらいなら、今みたいに会えなくなったとしても、普通の学校へ行かせるべきだったのかもしれない。
「……恵? なんて言ったの?」
今だけは心に素直になって強く抱きしめると、彼女は胸の辺りでもそもそ動いて顔を上げる。強く押し付けたせいで薄っすら鼻の頭が赤い。それがやけに可愛くて、もう一度唇を寄せる。
その時、外から「待ってくれ、ブラザー!」という、バカデカい東堂の声がやまびこのように何度も響いてきた。
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