五話:弔いの雨が降る
※性的描写あり
敷かれた布団の上にを押し倒し、軽く何度も啄むような口づけを繰り返した。昔はここまでしか事を進めていない。若い二人は、口を吸う行為だけでも幸せだったと思いだす。
触れては放し、また触れる。それを何度となく繰り返す。
「この首飾り……」
「ん? ああ……」
口づけの合間、俺のはだけた着物の衿元から首に下げているものが現れた時、は驚いたように目を見開いた。
「天元が持っててくれたんだ……なくしたものとばかり……」
「……お前が死んだように見せたかったんだろう。時田が持ち帰った。まァ……形見として持ってたっつうか……」
やけに照れくさくて視線を泳がせる俺を見上げ、はかすかに口元を緩めた。ありがとう、と呟きながら、輝石の首飾りに触れている。
「これは……この先も天元に持っていて欲しい」
「ああ……分かってる」
旦那のいる女に持たせる気はない。これはやっぱり形見として俺が持っていたかった。そこは頷いて、もう一度、深く深く口付ける。
一息置いて、の唇の隙間へ尖らせた舌を潜らせれば。油断していたのか、は肩を跳ねさせ、俺の着物をぎゅうっと掴んできた。
「ん、ぁ……っ」
呼吸が乱れ、熱い吐息が交わる。互いの舌を絡みつけ擦り合わせるだけで、全身の熱が上昇していく。焦がれた女の唇は、俺を容易く過去へと引き戻していった。口付けながら、浴衣の合わせ目を開いていくと、は恥ずかしそうに身をくねさせる。その恥じらう姿が可愛いと思う。でも合わせ目から手を滑り込ませた時、の手に掴まれた。
「……どうした?やっぱり気が変わったか?」
唇を放してから尋ねると、は慌てたように首を振った。
「違う……そうじゃない。ただ……私の体、前以上に傷だらけだから……」
「んなもん、分かってんだよ。いちいち変な心配すんじゃねえ」
「……ん、うん」
拷問を受けたと聞いた時から分かっていた。敵の間者に手加減するバカはいない。相当痛めつけられたんだろうことは想像に難くない。
以前は訓練などで切り傷などが薄っすら残っていた。その肌に今は大きな刀傷や、色が変色している箇所がある。だが顔には傷一つないところを見れば、拷問したと言う男も惚れた弱みがあったんだろう。そこだけが救いだ、と思った。
そして、そんな彼女を嫁に向かえた今の旦那の優しさすら垣間見えてしまう。
「本当に……いいのか?」
一瞬だけ、の旦那の顏が浮かび、ついそんな言葉が零れ落ちる。でもは何もかも分かったうえで、「今だけは……天元のお嫁さんだから」と拗ねた口調で、でも照れ臭そうに呟いた。
「なら手加減しねえ」
「ん、ぁっ……」
するりと忍ばせた手で浴衣を乱し、露わになった肌へ口付けていく。滑らかで真っ白な肌に刻まれた傷跡すら、の美しさを引き立てている気がした。薄暗い部屋に薄っすら灯る灯りが、艶やかなの裸体を照らし出す。
「想像してた通り……綺麗だな、お前は」
「そ、そんなこと想像してたの……んっ」
「当たり前だろ。してたさ、何度も。惚れた女をいつか抱く日を夢見てたわ。可愛いだろ?」
昔よりも明らかにふくよかさを増した乳房を揉みしだきながら、昔の本音を吐露して苦笑する。は恥ずかしかったんだろう。バカ、と小さく呟きながらも、鼻から抜ける可愛い声を洩らしながら、快楽に身を震わせた。
「あ……っん」
舌で乳房の膨らみをなぞり、誘うように屹立している乳首にも口付け、口へ含む。ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸ってやれば、の口から控え目で可愛い喘ぎが絶え間なく漏れ始めた。俺の体もとっくにその気ではあったが、の艶めかしい姿を見て更に腰の奥がずん、と重くなる。早く繋がりたいという思いと、まだまだを善がらせ、可愛がりたいという男の煩悩が交差する。体をズラし、乳首から唇を放すと、薄い腹へ唇を押し付けながらも、浴衣の裾を広げるよう、の太腿を持ち上げた。
「ん、ぁあ……て、天元……それ、だめ」
「うるせえ。お前の全部が見てェんだよ。嫁なら黙って感じてろ」
「……ちょ……んん、ぁっ」
内腿にもちゅ、と口づけながら、秘めた部分を押し広げる。薄い下生えでは隠しきれないその場所は、僅かに濡れていた。灯りの中で、男の欲を待ちわびるかのようにてらついている。淫靡で綺麗だと思った。
「舐めるぞ」
「え、あ……や、ぁっん」
まだ閉じたままの割れ目を下から上へ舐め上げ、柔らかい肉襞を溶かすように唇で解していく。そのたび、の口から切なげな吐息と、仔猫のようなか細い喘ぎが零れ落ち、俺の欲を煽ってきた。
「甘い……すっかり溢れてきたな」
にゅるりと襞を舌で掻き分け、くちゅくちゅと音を立てて吸ってやれば、隠れていた陰核が少しずつ顔を見せ始める。それが卑猥でやけに興奮してしまう。むせかえるほどの女の匂いがたまらない、とぷっくりしてきた場所へ指を伸ばす。
「ここもやっと顔を出して来たな」
「んぁ、や……ぁっ」
そこを指で撫でれば、びくんと腰を揺らすが可愛い。もっと善がらせたいと思うのは、俺が男だからなのか、過去に心底惚れた女だからなのか分からない。今はただ、俺の下で身悶える嫁を感じさせたくてたまらない。
「ひゃ……ぁっん」
舌先でつん、と陰核をつつくだけで、は背中をのけ反らせながら甘い声を上げる。たまらずくるりと舐めまわせば、抑えている太腿がびくびくと跳ねた。
「も、だ、め……て、んげん……んんっ」
閉じようとする腿をがっしり抑え込み、濡れそぼる花弁の口淫に耽る。舌を動かすたび蜜が増し、ちゅくちゅくと卑猥な音を立てるのが恥ずかしいのか、はいやだいやだと首を振った。なのに快楽には勝てないらしい。すっかり厭らしく膨らんだ場所へちゅうっと強めに吸いつけば、一際大きな声を上げて気をやったようだ。大きく体をしならせ、足の指先までびくびくとさせる様は、どうにも淫靡で色っぽい。は、は、と浅く早い呼吸を繰り返し、綺麗な二つの乳房が上下している。それを眺めながらも、とぷ、と蜜の溢れた場所へ指を無遠慮に押し込んだ。
「ひゃ、う」
気をやったばかりののナカは、とっくにとろとろだ。きゅうっと締め付けた指に、ぬるりと蜜が絡みついてくる。それを潤滑油にして指を出し入れすれば、収縮を繰り返す隘路からじゅぷじゅぷとあられもない音が洩れ、その音に重なるようにの啼き声も艶やかになっていった。感じてくれてるのかと思うと、それだけでこっちも体が熱くなる。
「かわいい声、洩れっぱなしだなァ、おい」
「や……んぁぁ」
今じゃ涙をぽろぽろ零しながら、頬を赤く染めて喘いでいる。その色っぽくも可愛い姿を見ていたら、唇を吸いたくなった。体を起こし、本能のまま唇を合わせる。今だけは、こいつも俺だけのものだ。
舌を吸い、擦り合わせつつも、指の動きは止めずにいると、潤んでとろんとした瞳が俺をぼんやりと見つめてくる。情欲を示す視線が、たまらなく愛おしいと思う。このまま朝まで抱いて、抱いて、抱き潰して、どこかへ攫ってしまいたいと切望するほどに。
過去の想いはとうに弔ったと思っていた。なのに、思いもよらぬ再会と逢瀬をキッカケに、再び息を吹き返す。体の中心から溢れ出る想いの熱は、確かに俺の心から生まれてくるものだ。なのに自分ではどうにも制御ができないなんて、人の心というものは、なんて厄介なんだと今更ながらに気づかされる。
唇の形など無視した口づけを繰り返したあと、ゆっくりと放せば、の小さな呼吸音がかすかに乱れた。
「天元……愛してる」
何度か軽く気をやったらしいは、浮かされたような口ぶりで呟いた。昔、初めて言われた時は俺の心をざわめかせた言葉。あの時の多幸感まで思い出し、懐かし過ぎて本気で泣きたくなった。
「あァ……俺もを愛してる……ずっと……この想いだけはお前のもんだ」
の頬に零れる涙を拭いながら、濡れた眦にも口付ける。
「……そろそろ挿れて欲しいか? すげえ濡れてきてんぞ」
「……バカ天元」
照れ隠しで言えば、彼女もまた視線を泳がし、昔の口調で唇を尖らせる。憎たらしいから埋めたままの指でふっくら膨らんでる辺りを刺激してやれば、んん、と可愛い声を洩らした。
「はは、お前もいい声で啼くようになったな」
「な……ス、スケベオヤジみたいなこと言わないでよ……」
「ハア? 俺はまだ23だ。誰がオヤジだ、コラ」
「天元は昔からスケベだったもん。一度唇許したら、会うたび吸わせろってノリだったし」
「……まあ、それは否定しねェわ」
今になって過去の行いを責められると、やたらと恥ずかしいのは何なんだと思う。耳が痛すぎる。でも昔も今も、同じ想いでに触れたいのだけは確かだ。
「つーか、惚れた女と一緒に居たら男はそーいうこともしたくなる生き物なんだっつうの」
「な……開き直ってる……」
「うるせェな……いいから股を開け」
「い、言い方……!」
指を引き抜き、脚の間へ体を滑り込ませると、は真っ赤になって昔のようにぎゃあぎゃあと騒ぎ出す。おしとやかに見えてた女はどこに行った? と首を傾げたくなったものの。俺にはこっちの方がらしいと思った。また、これが本来のこいつであり、俺の惚れた女だ。
「こっちは我慢の限界なんだよ。どんだけ昔の俺がこの瞬間を待ち望んでたか知らねェだろ、お前」
すっかり準備の整った場所を濡れそぼった入口へ宛がうと、は真っ赤な金魚の如く、口をぱくぱくとさせた。俺の腹にくっつくくらい屹立したモノを見てビビってるようだ。っていうか俺の下半身も素直すぎだろ、と自分で呆れるくらいガチガチにおっ勃ってやがるから無理もねェけど。
「む、無理……そんなの入んないってば……」
「あ? 入るだろ。こんだけ濡れてりゃ」
「そ、そういう問題じゃ……」
「あーごちゃごちゃうるせェ……こっちは限界だっつってんだろ。お前に挿れたくてうずうずしてんだよっ」
「さ、サイテー……もっと優しく……んぁっ」
最後の最後は色気もクソもあったもんじゃなかった。童貞かと思うほどに我慢も聞かず、半ば強引に肉茎へ手を添え、昂った陰茎をの膣口へ宛がう。ぐっしょりと濡れた花弁と、ぷっくり膨らむ陰核に、数度ぬちぬちと擦りつければ再びの口から艶のある声が漏れた。
「は……気持ちいいかよ、これ。お前の当たって俺も気持ちいいわ」
「ん……やぁ……っ」
「でも、そろそろナカで善がらせてェ……」
「だ、だから、その言い……んっぁあっ」
文句を言われる前に、ぬるりと陰茎を捻じ込めば、は喉を反らして甲高い声を跳ねさせた。俺も同時に吐息が洩れたのは、想像以上にナカの具合が良すぎたせいだ。やっと繋がることが出来た幸福感が快感を爆上げして脳髄まで蕩けていく。すぐにでも達してしまいそうなほどに気持ちいい。
「夢じゃ……ねェよな……」
「んん、て、てんげ、ん……」
俺の名を呼ぶの声。これは夢なんかじゃない。彼女の滑らかな肌も、熱い吐息も、こんなにも熱い肉襞の感触も。
ゆっくりと腰を動かしていく。奥を突くように。柔い襞が陰茎にまとわりつき、奥から蜜が溢れてくるのはぐちゅぐちゅという卑猥な音で分かる。出たり入ったりするたびに、襞が俺のモノを追うように縋りつき、腰の動きに合わせて、は何度も切ない声を震わせた。粘膜と粘膜のこすれ合う場所に、全身の熱が集中していく。
腰を夢中で振りながら、伸ばした指先で乳房を弄ぶ。それだけで陰茎がきゅうきゅうと締め付けられ、たまらず吐息が洩れた。
「すげェいい……締め付けてくる……」
「……ぁあっ……あ、当たって……んぁ」
あまりの気持ち良さに、つい怠慢な動きで奥をどん、と突けば、は身をくねらせ善がっている。惚れた女を善がらせる喜びは、何物にも代えがたい。
再び腰を押し付ければ、子宮口を突いた感触。が大きく背中をのけ反らせ、そのたび長い黒髪が優雅に揺れた。
「気持ち、いいかよ……」
「んん、は……ぁ……い、いい……」
気持ちいい、と囁くように呟かれた時、無意識に唇を合わせ舌を絡めていた。絡め合い、もつれ、ほどく。繰り返すたび互いの口内からくちゅり、くちゅりと粘膜の擦れあう音が洩れる。上からなのか下からなのか、すでにどちらの音かも分からないほど、室内には厭らしい音だけが響いていた。
乳首を弄っていた手を、今度は繋がっている場所へ伸ばす。先ほどまで可愛がっていた陰核は未だにぷっくりと膨らみ、そこを指で撫でてやれば、更にナカがきつく締まった。がたまらないというように腰を引こうとする。そうさせまいと片手で細腰を掴み、押さえつけたまま出し入れを繰り返した。
「ぁあ……ん、て、天元……待っ……」
「ここ、良すぎて俺もヤバいわ……腰止めらんねェ……」
息が苦しくなるほどの体を攻め立てる。戦いの呼吸とは明らかに違う淫らな吐息が絶え間なく吐き出された。横たわるの背に腕を入れて抱き起こすと、対面座位のまま体を揺らす。今まで以上に深く奥へ刺さった陰茎は、の最奥を何度も犯した。下から突き上げるよう腰を揺らせば、ぐぷぐぷと蜜の掻き混ぜられる音が鼓膜を刺激し、腰の速度を速める。俺も、そしても絶頂はすぐそこまで来ていたらしい。ナカがひくひく痙攣し始め、急激に俺のを締め付け始めるのが分かった。
「あぁ……出る……っ」
「んん、ぁ……ぁあっ」
一気に脳天まで突き抜けていく快感にぶるりと身を震わせた刹那。頭が真っ白になる。そのうち朦朧とした意識がゆらゆらと下りてくるような感覚になり、全身の力が抜け落ちたように二人で布団の上へ倒れ込んだ。
急に静けさを取り戻した室内には、はぁ、はぁ、という二人分の呼吸音と、外から聞こえる静かな雨音だけ。そこで初めて雨が降っていたことを思い出した。
「……」
隣に横たわる彼女の方へ腕を伸ばし、もう一度滑らかな肌を抱きしめる。それに応えるよう脱力したの腕がそっと俺の腰へ回され、ぞくりとしたものがそこから広がった。
「……天元、腰弱い? びくっとした」
「あたりめぇだろ。お前に触られたんだから。また誘ってんのかよ……スケベ」
「そ……そっちこそ」
少しだけ呼吸が落ち着いてきた頃、昔のような言い合いが始まる。本能のまま抱き合ったあとだと言うのに、やっぱり俺たちには色気が足りないようだ。でも俺とはこれでいい。何故かそう思えた。
なのにの髪を撫で、唇を吸えば、すぐに甘い空気に変わる。たった今、長年の想いを遂げたはずなのに、体はまだまだ欲張りなのか、足りないというように下半身が素直に反応した。
「て、天元……」
「んー?」
「あ、当たってる……」
「当ててんだよ」
すっかりガチガチになった場所をの細腰へ押し付ければ、腕の中で華奢な体がびくん、と跳ねた。その反応が俺を煽るとちっとも分かってねぇ。
「やっぱ一回だけじゃ足りねェわ」
「……な、何よ、それ……」
「あ? もっと抱かせろって言ってんだよ」
「ちょ……」
互いに横向きで抱き合っていたものの、の肩を押して布団へ押し倒す。上から見下ろせば、真っ赤になったが恥ずかしそうに見上げてきた。さっきまで散々なことをしてたってのに、未だ恥じらうの姿に、つい喉が鳴ってしまったのは無意識だ。
「好きだ……」
「な、何、急に……」
「素直な気持ち言ってんだろうが」
「そ、そんなこと言って、ただシたいだけでしょ」
「別にスケベなことだけしたいってわけじゃねェだろ。お前だから抱きたいって思っちゃダメなのかよ」
「……ダ、ダメなんて言ってない……」
すっと目を細めれば、は恥ずかしそうに目を泳がし、ごにょごにょと口を動かす。こういうやり取りも懐かしいが、今はが欲しい。
「お前が言ったんだろ。今夜だけ嫁にしてくれって。まだ深夜にもなっちゃいねえ」
「あ、あれは物の例えで……」
「そんな言い訳知らねえなァ。俺としては朝まで抱いてって意味に受け取ったわ」
「ちょ、ちょっと——」
「今夜だけだ」
「……っ」
焦るを見下ろしながら、ひとこと呟けば、彼女は小さく息を呑んだ。
「お前には旦那が、俺には嫁がいる」
「それは——」
「黙って聞きやがれ」
むぎゅっとの鼻をつまめば、痛い痛いと苦情を言いつつ、は濡れた瞳で俺を見上げる。
「けどな……今夜だけ。今夜だけは俺も悪い男になると決めたんだよ」
「天元……」
「でも朝を迎えたら……俺も、お前も、今の自分の居場所へ戻る」
勝手なことをして、勝手なことを言っている。けどもそれは同じだったようだ。涙を浮かべた顔には、いつしか笑みが浮かんでいた。うん、と小さく頷いたあと、は俺の腰へ手を回し、ぎゅっと力を込めて抱きしめてくる。それが返事だと言うように。
互いに本音を押し殺し、唇を求めあう。互いの温もりを刻みつけるように、縫うように唇を交じり合わせた。
ガキの頃からこいつのことが好きだった。まだ何者でもなかったあの頃、だけが俺の生きるよすが。
こいつのためなら他の嫌なこと全部を諦めてもいいと思えるくらい、俺はに惚れていた。
その女を、夜が明けたら手放さなければいけない。
「鬼じゃねェけど……夜なんか明けなけりゃいいのにな……」
長い口づけのあと、ぽつりと呟く。
互いに嫁と旦那のいる身でありながら、一時だけ現実から目を反らす。過去に心から惚れた女との、たった一つの過ちを犯すために。
これが俺との、最初で最後。夫婦としての初夜となる。
そして夜が明けたら——俺は三人の嫁のもとへ帰り、は旦那のもとへ帰っていく。これきり、二度と会うつもりはない。言葉に出さなくとも、互いにそれは分かっていた。
でもこれだけは言わせて欲しい。
「——愛してる」
俺たちの罪を隠すように、外からは静かな雨音だけが響いている。二人の涙の代わりとなり、好きなだけ物悲しく降ればいい。過去を弔うにはちょうどいい。そんな愁いを帯びた音だと思った。
昔、心底惚れた女がいた。それは最初で最後、たった一つの。俺の初恋だった。
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