「……貴様ら、何故呼ばれたか分かるな」 静かな低音が耳に心地よく響き、立っていたわたし達三人はゴクリと生唾を飲み込んだ。 ここは瀞霊廷内にある六番隊、隊首室。先ほどから室内には異様なくらい緊張感が漂っていた。 「……は、はい」 先に返事をしたのは真っ赤な髪に入れ墨がトレードマークの阿散井恋次だ。この六番隊の副隊長を務めている。 「では何故あのような結果になったのか言ってみろ」 そう言いながら、外の景色を眺めていた男――六番隊・隊長である朽木白哉はゆっくりと振り向いた。 朽木隊長の鋭い視線は、目の前に立っている阿散井副隊長。その隣にいるオレンジ頭の死神代行。そして――六番隊所属の一死神であるわたしを順番に射抜いていく。 「いや……それはその……酒の勢い……っつーか……」 「っていうか、あれ、やちるちゃんが悪いんじゃない?飲めない一護に飲ませたんだし」 「……って、てめえ!そりゃ遠まわしに俺が悪いって言ってんのか?あぁん?」 「あーら。鈍感のわりによく気付いたわねー」 「何だとぉ?!俺のどこが鈍感だっつーんだ!」 「ぜーんぶよ!一護は究極の鈍感じゃない!」 「だから何を指して鈍感だってんだよ!」 「あらら?それをわたしに言わせちゃう?!そーゆーとこよ!女心も分からない男なんてクズよ、クズ!織姫ちゃんも可哀想ー!」 「だから何で今、井上の話になるんだ?!」 「ほらコレだ。ここまで言っても分からないなんて、ほーんとアホですよね。究極のアホ。朽木隊長。どう思いま――」 「貴様ら二人だけは……何故呼ばれたか分かっていないようだな」 朽木隊長の冷んやりとした霊圧を感じ、散々罵り合っていたわたしと一護は慌てて口を閉じる。今まで黙って下らない言いあいを聞いていた阿散井副隊長の額にもタラタラと汗が流れ出した。 「あ、あの隊長――」 「黙っていろ」 フォローを入れてくれようとした阿散井副隊長を睨み、朽木隊長はわたしと一護を更に鋭い眼光で睨みつけた。 「分からぬなら私が直接聞こう……。夕べ。"鬼ごと"と称して私の屋敷の庭に隠れるため、酔ったまま忍び込んだのは誰だ?」 わたしはソッコーで一護を指差し、一護はわたしを指差す。 「一護です」 「こいつだ」 同時に互いを指したことで朽木隊長の綺麗な眉間に僅かな皺が寄った。普通に怖い。 「…では、もう一つ聞こう。その"鬼ごと"の最中、庭では見つかる可能性があると判断し、勝手に屋敷内へと侵入した際、酔ってフラつき障子に穴を開けたのは誰だ」 再びわたしは一護を指差し、一護はわたしを指差す。 「一護です」 「こいつだ」 そこで朽木隊長の口元がピクリと引きつったが、わたしは思わず指を差して来た一護を睨む。 「何でよ!あんたが酔っぱらってフラついて障子につかまったから穴が開いたんじゃない!」 「てめえだって酔っぱらって襖に突っ込んでたじゃねえかよ!」 「あんたが派手に障子を破ったから様子を見に行ったんでしょ!そしたら足元にあんたが倒れてて、それにつまづいたのよ!」 「あーそうかよ!じゃあ全部俺が悪りぃんだな?!」 「当たり前じゃない!そもそも一護が屋敷内に隠れようとしなければ、あんな悲惨な結果にならないで見つからずに済んだのにっ」 「はあ?だって庭より屋敷内の方が隠れる場所いっぱいありそう、とか言ってたじゃねぇか!だから俺は――」 「バッカじゃないの!言ったからって実行する?ホントだったら庭の隅っこで終わる話だったのにっ」 「つーか見つかったのは、てめえが障子に突っ込んだ後、起きてこねえでそのまま眠っちまったからだろ!起こしてもイビキかいて起きなかったくせによう」 「それは一護だって同じでしょー?!しかもわたしに抱きついて寝てるなんて最低!それを憧れの朽木隊長に見られるなんて――」 「貴様ら……反省、という言葉を知らんらしいな」 エキサイトするわたし達の口論に堪忍袋の緒が切れたらしい。朽木隊長は殺気すら漂う視線でわたしと一護を見据えた。阿散井副隊長はすでに白目をむいて石化している。 「阿散井恋次……」 「は……はい……」 「貴様は副隊長という立場でありながら、こやつらが屋敷へ侵入するのを黙って見ていた罪だ。分かっているな」 「い、いや俺は止めようと追いかけたんすよ!でも暗いから良く見えなくて庭にある池に足を滑らせて――」 「……なるほど。それで朝、私が鯉に餌を与えようと庭へ出たら貴様が池に浮かんでいたのだな」 「……は、はあ。すんません」 「おかげで私の大事な鯉が二匹ほど貴様と一緒に浮かんでいた。どうやら思い切り踏んでくれたらしいな。見事な潰れざまだった」 「……え、だから滑ったんすね、俺……」 わたし達ほどベロベロではなかったはずなのに何故、池で足を滑らせたのか分からなかったらしい阿散井副隊長。自分の足を滑らせた物の正体に気付き、ポンと手を打ってしまった。その瞬間、朽木隊長の口元が更に引きつる。 「ちなみにあの鯉は一匹100万以上はする」 「――い?!あ、あの派手な模様の魚が100……?!つか二匹殺してっから……に、200……ですか……」 「ついでに教えてやろう。貴様らが破った障子と襖は有名な業師が造った貴重なものだ。値段にすれば全部で――300万はする」 「「……んなっ」」 その値段に目が飛び出そうになったわたし、そして口をぽかんと開けている一護を朽木隊長は交互に見ると、 「――滞りなく。弁償してくれるんだろうな」 「そ、そんな!朽木隊長!わたしの給料じゃ一生かけても無理ですぅー!100年ローンでも払えませんよぉーっ!」 「つか俺まだ高校生だぜ?!んな大金、作れるかよ!」 「黒崎一護。お前は死神代行だろう?その死覇装を着ている時点で我々死神と同等の扱いをする」 「そんなバカな!だいたい俺がどうやってそんな金作るんだよっ」 「そうですよ、朽木隊長!」 破格な値段に降参したわたしと一護は哀願するように朽木隊長を見る。(阿散井副隊長はすでに別の世界へ飛んでブツブツ言っていた) いくら何でも一死神が300という金を用意出来るわけはない。けど朽木隊長は再びわたし達に背を向け、窓の外に広がる空を見上げた。 「条件次第では見逃してやらぬこともない」 「……ホントですか?!」 「何だよその条件って!虚退治か?!虚を300体、倒して来いっつーんなら今すぐ――」 「違う。貴様らに退治して欲しいのは虚ではない」 「じゃあ何だよ?」 「破面ですか!」 「違う。貴様らに退治して欲しいのは――そんなものではない」 藁にもすがる勢いのわたし達を一瞥すると、朽木隊長は静かに言った。 「十一番隊・副隊長。草鹿やちるだ」 「「「え――っ!!」」」 その名を聞いて驚くわたしと一護と阿散井副隊長。何の冗談かと朽木隊長の背中を見つめる。いや……冗談でもないらしい。朽木隊長は拳を握り締め、その端正なお顔に怒りの筋をピキッと浮かび上がらせた。 「あの副隊長が私の屋敷に秘密の通路を作って以来、安眠すら奪われ、屋敷の貴重品も壊され、あげく貴様らのような者を平気で屋敷に招き入れる……」 「あ、あのー朽木隊長……?大丈夫――」 「大丈夫ではないから言っている……。もし弁償出来ぬなら、あやつを二度と。私の屋敷に来れないようにしてくれ」 「え、いやでも……」 「屋敷中、罠を仕掛けたが、最近あやつもさすがに引っ掛からなくなった……。金平糖や雛あられを巻いてもそれだけ拾って逃げて行く。まるで野生のサルだ」 「「「……(そ、そこまでする?!)」」」 「貴様らはあやつと仲がいいのだろう。なら私の屋敷へは二度と入らせるな。それくらい言い聞かせられるな?」 朽木隊長は最後に哀願するよう言うと、深く息をついた。 「いいな。これが私から貴様らに与える任務だ。題して――"草鹿やちる・朽木家永久追放・大作戦"」 そのネーミングセンスゼロの作戦を口にしたあと、「それが出来れば弁償金はいらん」と言ってくれた朽木隊長に驚きつつも、わたし達は彼の本気を知ることになった。