
私の好きな人は何を考えてるのかサッパリ分からないくらい特殊であり、とても不思議な人だ。
かの有名な名探偵ホームズでさえ足元に及ばないくらいの名推理をするクセに、子供みたいにお菓子が大好きだったりする。
最初は三食全てスイーツを食べる彼を見て、何この人……とドン引きしてしまったくらいだ。
でも不思議なことに。慣れてくるとそのギャップが可愛いと思うようになって、気づけば淡い恋心なんか抱いてしまった。、一生の不覚。こんな変人を好きになるなんて。
「もうーまた散らかしてる」
一歩部屋へ足を踏み入れた瞬間、ウンザリして溜息が洩れた。
今朝は一時間もかけて片付けた彼のテーブル周りには、クッキーやマカロンの乗ったお皿がずらりと並んでいたからだ。
そのスイーツに囲まれた真ん中で、優雅にコーヒーカップをつまんでいるLのもう片方の手には、これまた甘そうなフレンチクルーラー。(しかもチョコとクリームがプラスされたエンゼルフレンチ!)
私が来たからといって、彼は特に気にする様子もなく。「片付けなんか頼んでいません」と言い放った。
その態度にはさすがにカチンとくる。でも例えここで怒ったところで、私が彼に口と頭で勝てるはずなどない。だから無謀な口答えをする気はなかった。
こんな男を好きになった自分を、ひたすら呪うだけだ。
「それより頼んだ資料は出来たんですか?」
「……はい、これです」
「ありがとう御座います」
Lは片手にドーナツを持ったまま資料を受け取ると、すぐに目を通し始めた。彼が読み終えるまで、私は傍で大人しく待っている。どうせやり直し、と言われるからだ。
「ダメですね。これじゃ分かりにくい。もっと誰にでも理解できるようにまとめて下さい」
「それでも分かりやすくまとめたつもりなんだけど」
「私やに分かっても、他の者には分かりにくい。やり直してください」
一刀両断とはこのことだ。まあ、分かってはいたけれど。
「……どの辺りを直せばいいの?詳しく教えてくれないと直しようがないわ」
自分の男の見る目のなさを嘆きながら、彼の隣へ勝手に座る。Lが選んだ高級ソファは、今日も見事にふかふかだ。
Lは仕方ないですね、と言いつつも私に分かりやすいよう、どこがダメなのかを詳しく説明し始めた。
資料を覗き込んでの会話だから自然と互いの顔も近づく。ふとLの大きな瞳に視線が動いて、彼の黒目に吸い込まれそうになった。
普段から寝不足で、目の下の隈はデフォルト。なのに惚れた欲目なのか、大きな黒目は引き込まれそうなほどに澄んで見える。出会った時、一点の曇りもなく正義を貫く人の目だと思った。
いつもは緩いし、変なこだわりが多くて駄々っ子みたいなところが目立つけど、でも悪人を追い詰める時の彼は、誰より真剣でカッコいい。
「、聞いてるんですか?」
「……え?あ、ゴメン……何て言ったの?」
Lに見惚れていたせいで肝心な話を聞き逃していたようだ。Lが呆れたように溜息をつく。
「全く……は優秀なのに集中力がなさすぎます。ワタリをお手本にして仕事をこなして下さいとお願いしたでしょう」
「……はーい。分かってますよー」
「ホントに分かってるんですか?」
Lの大きな瞳が半分に細められる。そんな顔すら可愛いく思えてしまうんだから、私もかなりの重症だ。
寝癖のついた髪も、色白の肌も、柔らかそうな唇も。全てが愛しい。痘痕もエクボってこういうことを言うんだろうな。
以前の私はもっと筋肉質で男らしい人が好みだったはずなのに、何で間逆なタイプのLを好きになったんだろう。
いつの間に、こんなにも大切な存在になっちゃったんだろう。
「だいたいは……」
説教が延々と続く。でも不思議と苦痛じゃない。
この瞬間は私だけを見てくれるから、説教されてる時間すら幸せなのだ。捜査に関すること以外ではそこまで雄弁じゃない彼も、こういう時だけはよく口が動く。それを見てるのも楽しい。
その良く動く綺麗な形の唇を見ていたら、キス……したいなぁ、なんて不謹慎な思いが頭を過ぎった。怒られてるというのに、私もたいがい呑気だと思う。
そして頭で考えるよりも先に、その思いが行動となって表れてしまったようだ。
気づけば私はLの唇へ自分のそれを重ねていて。彼は驚いたように目を見開いていた。
思ったとおり、Lの唇は柔らかくて、気持ちいい。ずっと抑えていた欲求が、全て満たされていく気がした。
「……な、何するんですか……!」
「何って……キスしたいなぁって思ったから……」
「お、思ったからって普通しますか?いきなり!」
Lにしては珍しく動揺している。色白の頬も薄っすらと赤い。
「だってLの唇、柔らかそうだから……」
「な……何を——」
「もう一回、していい?」
一度溢れた欲求はそう簡単には消えそうにない。彼の返事も待たずに、私はもう一度彼に口付けた。
「……セクハラで訴えますよ?」
長い長いキスのあと。Lが真っ赤な顔で呟く。普通は逆だよね、と笑えば、Lも呆れたような笑顔を見せてくれた。
「どうやら私は、女性を見る目がないらしい」
そう呟いたあと。今度はLからキスをしてくれたのは、他の皆には内緒の話。
甘い毒を下さい。