久しぶりに練習が休みだというから、この梅雨時期だというのに外で待ち合わせをした。でもちょうどつく頃にポツポツと降り出した雨に、早くも後悔という二文字が脳裏を過ぎる。せっかくブローしてきた髪も湿気にやられていくのが悲しすぎる。 鈍色の空からはしとしと雨が絶え間なく落ちてきて、待ち合わせをした駅は雨宿りをしたい人達で溢れかえっていた。それでも身長の高い仙道くんはすぐに見つけられる。仙道くんは改札口から出たわたしを見つけた瞬間、その綺麗な顔に喜色を浮かべて片手を上げた。その仕草だけで胸がキュンとするのはいつものことだ。 「ご、ごめんね。仙道くん…やっぱり降って来ちゃったね…」 「いーよ。と相合傘できるし、手も繋げる」 そんなことを言いながら本当に繋がれた手は、すぐに指が絡められる。指先って敏感なんだと知ったのは、彼と手を繋ぐようになってからだ。 「でもこの雨じゃが行きたいって行ってた海は無理か」 「そうだね」 ここは仙道くんちの最寄りの駅で、歩いて数分のところに観光名所にもなってる海がある。久しぶりに二人で海を見ながらデートをしたいと言ったのはわたしの方だった。 「今日はダメでも次があるでしょ。晴れた日にまた行こう」 「うん」 こうした些細な約束は嬉しい。仙道くんはバスケの練習で忙しいから普段はとっても疲れてることが多いし、デートをするにもなかなか時間が取れない。たまに会える日でも外で一緒にご飯を食べたりするくらいで、どこかへ出かけるといったことも最近はなかったから、久しぶりに一日ゆっくり出来るという今日は外でデートをしたかったのだ。でもこの雨じゃどこへ行くにも濡れてしまうし、仙道くんの体を冷やすわけにもいかないから仕方ない。 「ってことで…オレの家に行く?」 「…う、うん。そうだね」 答えながらも少しドキドキしていた。仙道くんの家は前に一度お邪魔したことがある。実家は東京だから、綾南に引き抜かれて入学した時に学校近くのマンションで一人暮らしを始めたと言っていた。前に行った時は夕飯を作ったりして一緒に映画を観て、その時に初めてのキスをされた。それ以来ぶりだから余計に緊張してしまう。 「お、何か手に力入った」 「そ、そんなことないけど…」 「何か緊張してる?」 「ま、まさか…」 相変わらず仙道くんは鋭い。普段のんびりしてるのに、わたしの些細な変化にもよく気づく。 「あー、もっとこっち来て」 「え?」 と思った時には仙道くんに肩を抱き寄せられていた。 「肩、濡れちゃってるし。何で離れるの」 「あ、ご、ごめん…」 恥ずかしくて無意識に少しずつ距離をとっていたようだ。わたしの左肩が雨に濡れていて、すぐにハンカチを出した。でもそれは彼の大きな手に奪われていく。 「拭いてあげる」 「え、い、いいよ…」 「いいから」 仙道くんは言いながらわたしの濡れた肩の水滴をハンカチで拭いてくれる。すでに駅から離れた住宅街には不思議なくらい人通りがなく、時折車が通る以外は雨の音しかしない。 「あ~前髪も濡れてる」 「え?あ…ありがとう」 前から吹き付ける風と共に細かい雨がかかるから、地味に髪も濡れていた。でもそういう仙道くんも何気に髪が濡れている。いつも上げている髪は頬にかかるくらい落ちていて、前髪の合間から覗く彼の瞳と目が合うとドキっとさせられた。髪が濡れて、まるでお風呂上りみたいに見えるせいだ。 「この雨じゃ拭いてもキリがないか」 「ほんと」 互いに苦笑しながら彼の家に急ぐ。繋がれた手はさっき以上に強く握られていて、仙道くんの手の熱さが伝染するみたいに頬の熱が上がっていく。 「誰も通らなくて良かったな」 もうすぐ彼のマンションというところで、仙道くんが苦笑交じりに呟いた。何のことかと顔をあげると、ふいにくちびるが重なる。驚いて固まってるわたしの顔を覗き込んだ仙道くんは、「今の、風呂上りみたいでちょっとエッチだから」と呟いた。 「え…っちって…」 まさかそんな目で見られてたなんて思わなくて、かぁぁっと顔が熱くなった。 「そーいうの他の誰にも見せたくねーじゃん?」 仙道くんの長い指が濡れた前髪を避けて、露わになった額にもちゅっと口付けてくる。外でキスをされた恥ずかしさで赤くなると、「そーいう顔するの反則」と言って、足早にマンション前まで歩いて行く。そしてドアを開けた瞬間、わたしの手を強引に引っ張った。 「今日はキス以上のことしちゃうかも」 「え…」 玄関に入った瞬間、抱きしめられて、耳元で欲の孕んだ声が響く。ただでさえ熱くなっていた頬がさらに火照っていくのを感じた。せっかくのデートが雨のせいで台なしになったと思っていたけど、仙道くんには逆だったのかもしれない。 「を部屋に連れ込む理由が出来たって思ってるオレって、最低かもな」 なんて言いながら、再びくちびるを塞いでくる。今日はもう一つの初めてを、彼にあげることになりそうだ。