全てのピースが揃った。
ここまで来れば私も日本へ――。

ニアの言葉に従い、再び訪れた国、日本。
ここは――悲しい思い出が多すぎる。

……大丈夫ですか?」

都内――。ホテルの部屋に落ち着き、ベッドルームで休んでいると、モニター等の設置が終わったらしいニアが顔を出した。

「私は大丈夫……もう、作業は終わったの?」
「はい。通信機器も設置が終わりました」
「そう」

ニアは私の隣に座ると、小さく息を吐いてから顔を上げた。

「それで……これから"二代目L"……いえ、夜神ライトに連絡を取ります」
「……え?」

その名前を聞いた瞬間、心臓が嫌な音を立てる。今日まで忘れたことのない名前。そしてあの顔が浮かんでは消えていった。



⌘ ⌘ ⌘



「レスターに聞いた所、彼はすでに日本へ帰国しています。その直後に現在キラの代弁者として有名な高田アナが誰かとホテルで密会してたようです」
「……密会?」
「はい。私は……それが夜神ライトだと睨んでます」
「あの二人が……?」
「はい。夜神ライトと高田は大学時代の同期だとか」
「うん……確かLが名前を偽ってその大学に入学した時、彼女は夜神ライトと付き合ってたこともあったようだけど……」
「そうですか。やはり……Lがそこまでの行動をするなら間違いないようですね」

の今の話を考えれば、夜神ライトと高田はその頃からすでに繋がっていたのかもしれない。
大学時代に高田がキラ崇拝者だと知り、今回夜神ライトが出目川の次に高田を使え、とXキラに指示を出していたのか……?
いや……それだと高田が急に自分の意見を言い出したことをみても……少しおかしい。
誰かと密会したあと、あの発言をしたのを考えれば、その時点で高田に指示を出したのは夜神ライト……。

「ニア……?」
「夜神ライトと……話してきます。はここで休んでいて下さい。長旅で疲れたでしょう」
「私は大丈夫。それより……メロが今どこにいるか調べて欲しいの……」

そう言いながら不安げな顔をするを見て胸が痛む。きっとメロは独自に動いてキラを追っているだろう。
こうなれば止めようもない。

「分かりました。先に日本へ入国していたリドナーに調べさせます。きっとメロと連絡を取っているでしょうから」
「リドナーって……あのハルって人?」
「はい、そうです」
「そう……」

は少し表情を曇らせると、ベッドの上に上がって横になった。

「やっぱり移動で疲れちゃったみたい……少し寝るね」
「分かりました。後で食事を運ばせますので、それまでゆっくりしていて下さい」
「……うん。ありがとう」
「では私は隣にいますので」

それだけ伝えて部屋を出ると、静かにドアを閉めた。広いリビングには沢山の機器が設置され、その前にはレスター指揮官がいる。どうやらジェバンニやリドナー達と連絡を取っているようだ。

「ああ、ニア。二人がNHNの近くのホテルに入ったそうです」
「そうですか。では繋いでください」

そう告げるとモニターが切り替わり、二人の姿が映し出された。

「私はこれからLと連絡を取ります。その報告はまた後ほどしますが、その前に……リドナー」
『はい』
「メロも日本へ来ているようですが、今も連絡は取れますか?」
『はい』
「では……居場所を聞き出すということは出来ますか?」
『……いえ、それは無理でしょう。メロは自分の動きを一切、話しませんし……』
「そうですか。では……が日本に来ていると教えて下さい」
『え……?話してもいいんですか?』
「ええ、お願いします。彼女が日本にいると分かればメロも私に連絡してくるでしょう。その後のことは私が考えます」
『……分かりました。では後でメロに連絡してみます』
「お願いします。では今からLに連絡しますので、終わるまでそこで待っていて下さい」

それだけ告げて通信を終えると、隣で聞いていたレスター指揮官が心配そうな表情を浮かべながら私を見た。

「いいんですか?ニア……メロに彼女のことを伝えて。彼の事ことだからまた感情的になるのでは……」
「それでいいんです。が日本にいると分かればメロも心配するでしょうし、無茶をしなくなる可能性があります。あくまで可能性だけですが……」

それだけ言うと、私はすぐに二代目Lへと連絡をとるべく、マイクの前に座った。



⌘ ⌘ ⌘



日本に入国し、模木達の動向を追うと共に、新たにキラの代弁者となった高田という女を探ることにした。
この女は頻繁に誰かとホテルで密会している。その相手は必ずキラと繋がりのあるもの……いや、それか――キラ本人ということも大いにあり得る。

「……模木達の動きはどうだ」
『いや、特に動きはない』
「そうか……」
『そっちはどうだ?綺麗な女子アナさんが誰と密会してるか、分かりそうか?』
「いや……こっちはかなりガードがキツイしヘタに近寄ると危ないな」
『そっか。まあ、でも羨ましいよ。オレが彼女を見張りたいくらいだ』

そう言いながらマットは楽しげに笑っている。
人の気持ちも知らないで呑気なものだ。

「とにかく目を離すなよ。今度、見逃したら――」
『分かってるよ。むさくるしい男ばかり見張っていても退屈なだけなんだけどなぁ』

マットは愚痴を言いながら電話を切った。
相変わらず緩い奴だと溜息を吐きつつ、再びNHNの建物を見上げる。これから高田が出るニュースが放送されるのか、ビル内にいる警備員達も慌しくなってるようだ。
ただの女子アナの一人に過ぎなかった高田が、キラの代弁者になった途端、女神のように称えられ、大統領なみのSPを付けだしたのだから笑うしかない。
周りから持ち上げられ、高田本人も自分を大物女優か何かと勘違いしているのが鼻につく。
ただ、あの様子ならそのうちボロを出すんじゃないかと思っていた。あの女が調子に乗れば乗るほど、綻びも見つけやすくなりそうだ。
そう考えていると再び携帯が鳴る。ディスプレイにはハルの名前が出ていた。

「もしもし……ハルか。どうした」
『ニアがこっちへついたわ』
「……そうか。予想通り早かったな。それで……の所在は?どうしたか聞いてるか?」

一番気になっていた事を尋ねると、『それが……』とハルが言葉を詰まらせた。

「どうした?」
『……どうやらニアは彼女も日本へ連れてきたようなの』
「……何だってっ?」

その言葉に思わず声をあげてしまった。見つからないよう慌てて建物の陰に隠れる。
ここで高田の護衛に見つかれば厄介だ。
気持ちを落ち着けるため軽く息を吐き出すと、「それは本当か?」と確認する。

『ええ……本当よ。ニアがメロに連絡して、そう伝えろと言ってきたわ』
「……チッ。何考えてるんだ。何故、を……」

そう言いながらも、ニアならきっとを一人残しては来ないであろうことを、俺は何となく予感していたのかもしれない。傍に置いておく方が安心なんだろう。
それと同時に俺の行動を抑えようとしているに違いない。

「それでとニアはどこに?」
『それは私も知らされていないの。だから場所は分からないけど……多分都内のホテルだと思うわ』
「……分かった。ニアには俺から連絡してみる」
『その方がいいわね。きっとニアもそう考えて私に彼女のことをメロに話せと言ったんだと思う』
「……ニアの奴。おい、ニアはどこまでキラに近づいてる?」
『詳しいことはまだ聞かされていないわ。でもこれから二代目Lと連絡を取ると言ってた』
「二代目と……?」
『ええ……その後に私達に何らかの指示を出してくるはずよ』
「……分かった。その時にまた連絡をくれ」

そう告げて電話を切る。同時に深い溜息が洩れ、俺は壁に凭れた。
がこの国に来ている。そう思うと心配だが、ニアの傍にいる限りは安全が保証されていると考えていいだろう。
だが…あくまでニアの目的はオレを止めること……。
まだ諦めてはいないんだろうな、と思うと苦笑いが零れた。
感情で動く俺は、キラにとってもニアよりは狙いやすいはずだ。そのことで危険に曝されてるのは確かに俺の方なのかもしれない。だが俺が動くことで或いはキラを追い詰める手助けになるかもしれないんだ。

今はもうニアに勝つことだけを考えてるわけじゃなかった。
の気持ちを考え、未来を考え。の幸せ、それだけを願い、ニアは今、全力で俺を止めようとしている。
その気持ちは俺だって認めている。だからこそ止まれないという俺の気持ちを……ニアは分かっているんだろうか。

ごめんな、……きっと心配してくれてるんだろうな。
でも俺はこんな中途半端なところで逃げ出すわけにはいかないんだ。
必ずキラを追い詰める――。
今の俺はそのことだけを考えていた。



⌘ ⌘ ⌘



「ならば近いうちに……顔を合わせるかもしれませんね」

二代目L、夜神ライト。いや――キラにそう告げたあと。私はキラの代わりに裁きを下している"Xキラ"の正体を探っていた。
大量のデータをいくつものモニターに映し出し、高田に近しい人物を割り出していく。
その中に一人の男が浮かび上がってきた。

魅上照――。
今まで高田が出演した全ての番組の中で、魅上は二回ほど確認出来た。
二回……親しくなるきっかけは十分にあったといえる。
それにこの物言い……。キラの言う"能力のある人間がそれを社会貢献に活かさず生きることを許さない"という思想に酷似している。
何より"キラ王国"の方でのこの発言……。

『是非、またキラの声を……考えを聞きたいと思っています。そしてその思想、目指す物に従いたい。キラの教え、指示通りにしていくことが、世界平和への一番の近道と私は考えています。キラ、どうか声を。もしキラの指示、言葉がなければ――これがキラの考えではないかと自分で考え判断し、行動していくことが必要と考えています』

淡々と語る姿がモニターに映し出されている。キラ思想にどっぷりと浸かった"キラ信者"の一人だ。
この発言の四日前……出目川は死に、この発言の四日後、高田が代弁者に選ばれた……。
それは私がLに"13日のルールが嘘"と突きつけ、模木はメロにより、相沢は自ら私のところへ来た後の出来事……。

頭の中のパズルが動き出し、徐々に真相へ近づいていく。あらゆることを繋ぎ合わせていくと、全ての辻褄が合っていった。

魅上照="Xキラ"

この図式は……考えられる。

「レスター指揮官」

そのまま捜査に出かけているレスターの携帯に電話をかける。

『はい』
「交友関係を洗うのはもういいです。戻って来て下さい。今、一人の者が浮かびあがりました。それが外れだった場合、またお願いします」
『えっ?もうXキラの容疑者が?!』
「はい。私、観るのは得意なんです」

それだけ言って交信を切ると、再びモニターに視線を戻した。数あるモニターには色々な番組に映っている魅上を映し出していて、その中でも魅上は淡々とキラへの言葉を語っている。
凝り固まった"正義"を掲げ、キラを崇拝していることを隠そうともしない。
この男もまた、歪んだ正義の持ち主……。
似ている……この思想、理想……何もかも。
キラの持つ"正義"に――。



ピピピピ……という電子音が鳴り響く。モニターから一度視線を外し、すぐに通話ボタンを押した。

「メロですか」
『……ああ』
「そろそろかかってくる頃かと思っていました」
『相変わらずだな。何でもお見通しってわけか』
「……のことでしょう?」

そう尋ねるとメロはそうだ、と呟き、『そこにいるのか?』と訊いてきた。

「いえ……今はベッドルームで寝ているようです」
『……そうか。でも……大丈夫なんだろうな』
「……何がです?」
『分かってるんだろう?ここはLを失った国だ。にしたら二度と来たくはなかっただろう』
「……そうですね。最初は……嫌がっていました。ですがメロが日本へ行くと聞いて承諾してくれたんです」
『……俺を利用したってわけか』
「結果的には。でもが自分で決めたことです」
『……そこまでしたなら……必ずを守れ。彼女に何かあったら許さない』
「……」

メロの言葉は真剣だった。そこからも彼女への想いが伝わってくる。
幼い頃から何度となく、見せ付けられたものだった。

「分かっています。ですが……そんなに心配ならメロがキラを追うことをやめればいいだけの話です」
『またをダシにして俺を止める気か?』
「もちろんです。これ以上、を心配させて何になるんです?メロだって分かっているでしょう」
『……ニア。一言だけ言っておく。Lに誓ったのは……お前だけじゃない』
「……ッ」
『生半可な気持ちでここまで来たわけじゃないんだ』
「分かって……います」
『だったら……俺が言いたいことも分かるだろう』
「……はい」
『俺は……絶対に死なない。必ず戻る。それまで……を守っていて欲しい』
「……分かりました」

メロの固い決心が胸をつく。
分かっていた。メロがどれほどの思いでキラを追っているか。
それでも私は……メロを止めたかったのだ。

「では……"必ず戻る"と約束して下さい。決して……を悲しませるようなことはしない、と」
『約束する。俺だって……の傍に帰りたいんだ……』
「……」

それは初めて聞くメロの弱音だった。これまで私にはそんな姿をさらけ出したことはない。
自分の弱い部分を隠して互いにこれまで競ってきた。なのに今は恥も外聞もかなぐり捨て、彼女を守るため必死にLへの誓いを貫こうとしている。
その気持ちは嫌というほど理解出来た。私も……それは同じだからだ。

『ニア……』
「はい……」
と話したい。代わってくれるか……?』
「……もちろんです」

一つ溜息をつくと、私はそのままのいるベッドルームへと歩いていった。



⌘ ⌘ ⌘



ふと目が覚めたら綺麗な天井が見えた。一瞬驚いて起き上がれば、すぐにホテルのベッドルームだと気づく。

そうだ……私はニアと共に日本へ来たんだった。もう二度と……この国に来るこはないと思っていたのに。
豪華な部屋にいると嫌でもLと一緒にいた日々を思い出してしまう。
4年前、この日本で過ごした、あの最後の日々を。

「寝すぎちゃったかな……」

時計を見れば、すでに夜中に近い時間。
ニアはどうしたんだろう、とベッドから抜け出す。そこへノックの音がしてドキっとした。

「私です。、起きてますか?」
「……ええ。どうぞ」

すぐにドアが開き、ニアが入って来た。その手には私の携帯電話が握られている。

「メロから電話です。話しますか?」
「……え、メロ?」
「はい。が日本に来ていることを伝えました」

ニアはそう言って私に携帯を渡す。少し緊張しながら受け取ると、ニアは「話して構いませんが、ここの場所は言わないで下さい」と言って、ソファに腰を下ろした。素直に頷いてから、軽く深呼吸をして携帯を耳に当てる。傍にいるわけじゃないのに、やけにドキドキしてきた。

「も、もしもし……」
……?』
「うん……」
『ニアから聞いた。今、日本にいるんだって?』
「……ごめんね、勝手な事して……でも少しでもいいからメロの傍にいたかった」
『……』

メロは何も言わなかった。その沈黙は怒っているのかと思ったけど、すぐに違うと気づいた。

『いや……悪いのは俺の方だ。心配かけてすまない……』
「メロ……」
『いつも……勝手なことしてごめんな、

メロのその言葉を聞いた瞬間、じわりと涙が溢れてきた。
メロだって分かってるんだ。ニアがどうしてこんなことをしてるのかを、痛いくらいに。

「メロ……今、どこ……?マットは?」
『あちこち転々としてる。マットも一緒だ』
「……そう」
は……ニアの傍にいろ』
「……え?」
『……そうしてくれると俺は安心してキラを追える』
「メロ……」
『俺のするべきことが終われば……必ず迎えに行くから。だから……』

待ってて欲しい――。
その言葉を最後に、唐突に電話は切れた。

……?」
「やっぱり……止められないみたい……」

零れ落ちた涙を拭いて笑って見せれば、ニアは小さく息を吐いて私の方へと歩いて来た。
そして「無理に笑う事はありません」と軽く抱きしめてくれる。その体温にホっとしながら何度か頷くと、ニアの胸に顔を押し付けた。
悲しいのと、嬉しいのと、心配なのと……心の中がグチャグチャだ。
でもメロだってこんな私の気持ちをきっと分かってる。
それでもメロは、キラを追うことを選んだ。そのメロの気持ちも、私には痛いほど分かる。

「キラが憎いよ、ニア……。いつも私から大切な人を奪ってく……」
「もう……そんなことはさせません。その為に、私はここにいるんです」
「ニア……」

顔を上げると、ニアの真剣な眼差しと目が合う。

「Lとキルシュがハウスへ帰ってきた時……私は二人の墓標に誓いました。必ずキラを捕まえ、そして……の幸せを守ると」
「……っ」
「それはメロも同じです」
「……ニア」
「Xキラの正体も少しずつ分かってきました。今、間違いなくキラに近づいている。もう夜神ライトの好きにはさせません」

キッパリ言い切るニアを見て、また涙が溢れてきた。
この国でLを失ったあの日から、今日まで。私達の戦いは続いてる。
この苦しみをどうすることも出来ず、一人で彷徨っていた頃。Lの後を追うことしか考えてなかった。
だけどメロが私を見つけてくれたから……また生きる希望を持つことが出来た。
もう一人じゃないんだと、信じることが出来た。そして今はニアまでが私を支えてくれている。
Lの後継者だった二人が……今もLの意志を継いで私のことを守ってくれている。
それはどんなことよりも、尊いものだった。

「ありがとう、ニア……。Lもきっと……喜んでるね」

ニアが優しい顔で笑った。その微笑みに胸の奥が熱くなる。
一人、死と隣り合わせでいた日々。泣いても、叫んでも、ずっと一人だった。
でも、だけどこれからは――。


一人ぼっちで泣く夜はもう来ない

ひとこと送る

メッセージは文字まで、同一IPアドレスからの送信は一日回まで