
尾行していった先で数人の日本人と見られる男達が出入りしているビルを見つけ、俺はそこを張っていた。
このビルに日本捜査本部があると確信しながら、あの"二代目L"と名乗っている男もいる可能性が強くなり、ここは焦らず監視することにした。
(マットの方はどうなってるんだろう……)
そう思った時だった。携帯に着信が入る。すぐに通話ボタンを押すと、マットの少し浮き足立った声が聞こえてきた。
『模木が入った部屋に住んでるのは若い女……いや子供のような女だ』
「……女?」
『一見、模木の彼女とも見える……腕を組んで買い物に……俺がこう言うのも何だが……かなり可愛らしい……』
マットは何気に羨ましそうな説明を始めたが、殆ど無視し(!)その女が何者なのかを考えていた。
確かハルの話に、それらしい女が出てきた。
と言うことは、その女が"第二のキラ"だということになる。
いや、"第二のキラだった" はずだ。
「分かった。こっちはまだヘタな手出しは出来ない。まずはそっちからだ」
『OK』
電話を切り、マットのところへ急ぐ。その女がどういう人物なのか知る必要があった。
その数分後、俺はマットと合流してその女の部屋を見張ることにした。
不在時に部屋に忍び込み、盗聴器を仕掛け、近所にあったオンボロアパートを仮住まいに借りる。
「えー?俺があっち見張るの?」
「ああ。野放しにしとくわけにはいかないだろう?」
汚い部屋を適当に片付け、パソコンの機器や機材を運びこみつつ。不満げな顔をしているマットを睨んだ。
「この女は"第二のキラ"だったはずの女だ。俺が見張るからマットは早く相沢達の方へ行け。場所ならメモしただろう」
「……とか何とか言って。メロ、もしかしてこの女に興味あるのか?に言いつけるぞ」
「……」
下らないことを言い出したマットに心の底から溜息をつき、ジロリと睨む。
マットは慌てたように笑顔を作って両手をホールドアップさせると、「ジョーク!ほんのジョークだって」と笑って誤魔化した。
「……下らないジョークを言うな。このバカ女のどこにオレが興味を持つって言うんだ?」
そう言いながら盗聴器から聞こえてくる女と模木(殆ど女がしゃべってるが)の会話に耳を傾けた。
『……でね~?ライトが言うのよ~♪ミサがいてくれてホントに助かるって!ミサ、愛されてると思わないー?モッチー』
語尾を延ばす特有の話し方。甘ったるい声を出している女に正直ウンザリする。
こういう話し方の女はバカ丸出しで、頭が悪いと言っているようなものだ。
マットに限ってそんなことすら気にならないのか、「可愛いと思うけどね、俺は」などと真顔で言いながらニヤケているから呆れてしまう。
「マット……お前、もう少し女を見る目を養え。大人になっても自分のことを名前で呼んでる女はだいたいIQが低い。ただのガキだろ」
「俺はIQで女を見ない。バカな方がすぐヤラせてくれそうだし」
「……はあ」
「あれ。今、凄く呆れてるだろ。まあメロはいいよなぁ。は美人で可愛くて優しいしバカじゃないからな」
「……うるさい。いいから早く行け」
手でシッシとやれば、マットは「ひどい扱いだな」とブツブツ言いながら部屋を出て行った。
せっかくここまで来て呑気に世間話をしてる暇などない。
俺はヘッドフォンをしながらチョコを咥え、ソファに腰をかけた。相変わらずヘッドフォンからは甘ったるい声で話す女の声が聞こえてくる。特に役に立つ情報を話すわけでもなく、模木に恋人らしき男のことを延々とノロケまくっているようだ。
「この天然のバカ女が"第二のキラ"だったのか……?」
ウンザリしながら溜息をつく。だが模木がこの女と一緒にいる理由が他にあるとも考えられない。
パソコンで女の載っているサイトを閲覧すると、色々なデータが載っていた。
そこには女の両親が強盗に殺され、その犯人をキラが殺した、ということまで載っている。
そしてそれにより、女はキラを崇拝しているような発言を繰り返していたようだ。
だが……本物の第二のキラなら逆にそんな発言は避けるはず……この女がノートで人を殺しているようには見えないが……
いや……目を持っていればそれだけで価値があると言うことか?
それにしてもキラがこんな女を使うとは……。
何となく納得いかずにチョコを噛み砕いてパソコンの画面を見つめた。
その時、ふとのことを思い出す。
もしこの女が第二のキラだったなら、日本でLや、そしてとも顔を合わせているはずだ。
Lはキラ、そして第二のキラを、かなりのところまで絞り込んでいたという。
なら当然、も知っているはず……。
時々考えるのは、はまだ何か俺に隠しごとをしている、とい点だ。
"死神"という言葉を彼女の口から聞き、その後で実際にこの目で死神を見た時そう直感した。
は日本でキラに関する重大な秘密を知った可能性がある。
ならそれを何故、オレに言わないのか……。
心当たりはある。
は怖いんだ。俺にその情報を伝えれば、その後に俺がとる行動など彼女にはお見通しだろう。
そうなれば俺はLと同様に死と隣り合わせになる。
そうなった時、また悪夢が繰り返されるんじゃないかと彼女は心配してるんだ。
そして俺もまた、その不安を抱えている。キラを追う一方で、もし正体がばれて俺までキラに殺されたら……
はまた深い傷を負うことになる。
以前の俺なら死ぬことなど怖くはなかった。
でも今は……の為にも生きていたいと思っている。
それがほんの僅かでもオレの弱さに繋がっているんだ。
だからこそ、何かを知っているに問い詰めることが出来ない。
キラの情報なら少しでも欲しいクセに、に未だ聞くことが出来ないでいる。
を手に入れてから、それはいっそう強まり、俺は迷っていた。
「チッ……臆病者め……」
自分の弱さと直面し、思わず毒づく。
彼女を傷つけたくないのなら、キラに勝てばいいだけのこと――。
そう自分に言い聞かせながら、内にある恐怖を追い出そうとした。
ニアに言われて来た場所はダウンタウンにあるシビックセンター前だった。
目の前には郡裁判所や市庁舎などが立ち並び、すぐ横にはLAタイムズ新聞社、またすぐ近くにはロス警察までがある。
こんな目立つ場所に本当にニアが姿を現すのか。私は疑問に思いながらも言われた場所に降り立った。
夕方のこの時間ともなれば、仕事を終えて帰宅する人達で溢れてかなり賑やかだ。
ふと時計を見れば、約束の時間の数秒前。それらしき人がいないかと辺りを見渡してみた。
その時、不意に背後で気配を感じて私は振り返った。
「……さんですね?」
「……っ?」
静かな声で話すその人物は、ニア本人ではなかった。
てっきりニアが来るものと思い込んでいた私は、一応用心の為、その質問には答えず、「あなたは?」と問いかける。
「私はニアと捜査をしているSPKのジェバンニと言います。一緒に来て頂けますか?」
「SPK……」
誤魔化さずにハッキリそう応えた男は近くに止めてある車を指差した。
黒髪に長身の男。顔にはサングラスをかけている。
何か怪しげで本当に信用してもいいのかどうかを考えあぐねていると、不意に携帯が鳴りだした。
男が電話に出ろと促すように合図をしてきた。仕方なくバッグから携帯を出すと、すぐディスプレイを確認してみる。
一瞬だけメロからかと思ったけど、そこには先ほどと同じく非通知としか出ていない。
「もしもし……」
『ニアです。そこにSPKの者はいますか?ジェバンニという男です』
「……え、ええ……いるわ」
『では彼の指示に従ってください。信用して頂いて大丈夫です』
「分かった」
ニアが言うなら本当に大丈夫なのだろう。それだけ応えると電話を切り、改めて目の前の男を見る。
「では、車に乗って下さい」
止めてあった車に私を乗せると、ジェバンニという男は運転席に乗り込み、私にアイマスクを差し出した。
「念のため、それをつけて下さい」
「え……これを?」
「はい。行き先がバレては困ることもありますので、申し訳ありませんが」
「……分かりました」
かなりの用心深さに驚きながらも、素直にそれをつける。
ニアだってキラを追っているのだ。
どこから情報が洩れるか分からない今、このくらいするのは当然のことかもしれない。
万が一、私がキラに操られてしまった時、ニアの居場所を知られないように、こういった対策は必要だと思う。
言われたとおりアイマスクをつけると、車は静かに走り出した。その間、ジェバンニという男は一切口を利かず、黙々と運転している。車は何度か曲がったり、スピードを上げたり下げたりしながらも、10分ほど経った頃にやっと停車した。
「どうぞ、アイマスクを外して下りてください」
言われるままアイマスクを外し、軽く目を細めながらも車を下りる。そこはその辺のビルにありそうな地下駐車場だった。
「こちらです」
ジェバンニは慣れた様子で廊下を歩き、エレベーターへ乗り込んだ。私もすぐに後を追いかけてそれに乗り込む。
エレベーターは最上階で止まり、静かに扉が開いた。
ジェバンニはエレベーターを降りると、再び廊下を歩いていく。辺りはシーンとしていて他に人はいないようだった。
「ジェバンニです」
彼が扉の前に立って告げると、その扉は音もなく開いた。促されるまま私も中へ入ると、ジェバンニをそのまま廊下に残して扉は閉じてしまった。
ここからは一人で行けと、いうことなのだろう。
私はゆっくりと足を進めながら「ニア?」と声をかけてみた。
「私はここです」
奥から声が聞こえてきてドキっとする。声のする方へ歩いて行くと、目の前には沢山のモニターが現れ、その周辺にはこれまた沢山のパソコン機器が繋がれている。それを見て脳裏にLの姿が浮かんだ。
彼もこんな風に沢山のモニターの前で仕事をしていた。
ふとパソコンの前に座っていたLの背中を思い出し、胸が痛くなった。
「……、お久しぶりです」
「……っ」
ボーっとしていると不意に背後から声をかけられた。驚きでびくりと肩が跳ねる。
「……ニア」
振り返ると、そこには一人の少年がいた。床いっぱいのオモチャに囲まれ、その真ん中でペタンと座り込んでいる。
その姿が懐かしい記憶と重なり、つい笑みが零れた。
「……久しぶり。大きくなったね」
記憶の中にいるニアよりもはるかに成長した姿。思わず胸の奥が熱くなる。
同時に、それだけの月日が経ったのだと思うと、やけに悲しくなった。
「は……少しも変わりませんね。いえ……少し痩せましたか」
「そうね……色々あったから」
メロと再会するまでの間、私は死んだも同然のような生活をしていた。
その時の記憶はハッキリしないけど、本当に廃人同然のような時間を彷徨ってたんだと思う。
「直接迎えに行けなくてすみません」
「いいの。ニアの立場なら当然よ。それに……昔からニアは外に出るのが苦手だったでしょ?」
私が苦笑すると、ニアは昔と変わらず柔らかそうな髪に自分の指を巻きつけ、視線を僅かに反らした。
これはニアが答えに困ったり、考え事をしている時に出るクセみたいなものだ。
そういうところは変わってないんだと思うと、少しだけホっとした。
「……どうぞ。座って下さい。お茶を用意してあります」
ニアは静かに立ち上がると、オモチャをまたいで奥にあるワゴンを押してきた。
その上には紅茶のポットとカップが乗せられている。
「ありがとう。あ、私がやるわ」
おぼつかない手つきでポットを持ったニアを見て言えば、ニアはホっとしたように「お願いします」と言った。
昔からニアはこういったことが苦手だった。
オヤツの時間の時も、当番になったニアが皆の中でも一番カップを割る率が多かったことを思い出す。
「何を笑ってるんです……?」
「ううん……変わってないなぁと思って」
「……私が、ですか?」
「うん。あ、もちろん外見は多少変わったけど、随分と男らしくなってる。趣味は……変わってないようだけど」
「……」
そう言って目の前に広げられたオモチャを見れば、ニアは照れ臭そうに視線を反らし、また髪に指を巻きつけている。
私は笑いを噛み殺しながら紅茶を注いだカップをニアに手渡した。
「いえ。私はいりません。の為に用意させただけです」
「そう?じゃあ遠慮なく頂くね」
そう言って紅茶の香りを楽しみながら一口飲む。
それはLが好んで飲んでいた紅茶葉だった。
メロもそうだけど、ニアも覚えていてくれて、しかもそれを用意してくれたことが素直に嬉しかった。
「ところで……SPKメンバーは?まだ他にもいるんでしょう?」
コンピューターだらけの部屋の中を見渡しながら尋ねる。確かメロが情報をもらっていたという女の人がいるはずだ。
メロはああ言ってくれて私も納得はしたものの。やっぱりどんな人かは気になる。
けどニアは「他の者は外させました」と言った。
「と二人きりで話したかったもので」
「……そう」
再び床の上に座るニアを見ながら、内心ちょっと残念なんて思いつつ、周りをぐるりと見渡す。
ここにはソファといったものはなく、私は仕方なくニアの隣に腰を下ろした。
「ここで……捜査してるの?」
落ち着かない様子でオモチャをいじるニアに問いかける。ニアは「そうです」と返事をしながら、掌で弄んでいたサイコロを転がした。これらの動作は遊んでいるのではなく、ニアなりに精神を集中しようとしているものらしい。
「そっか……頑張ってるんだね」
「キラを絶対に捕まえたいですから……」
ふと手を止め、真剣な顔で呟く。その顔には固い決心が現れていた。
メロと同じく、揺るぎない思いを感じる。同時に二人から尊敬されていたLを思った。
二人の成長を、きっとLも見たかったに違いない。
「……ねぇ、ニア」
「……何ですか?」
「メロと……二人で捜査することは無理なの?」
「……はい」
「どうしても……?」
同じ思いを貫いて頑張っている二人なのだから、出来れば一緒に戦って欲しいと思った。
だけどニアは軽く首を振ると、「私が良くても……メロは絶対OKしないでしょう」と言った。
確かに、それはそうだ。
メロはニアに勝ちたいという気持ちを未だに持ち続けているのだから。
「そうね……ごめん。バカなこと言って……」
「……いえ。の立場からすればそう思うのは当然です。例えLでも……同じことを言うでしょうね」
ニアはそう言うと、ふと顔を上げた。大きくて綺麗な瞳が真っ直ぐに私を捉える。
こうして顔を合わせていることが、どこか不思議な感じだ。
「あ……えっと……それにしても私とメロが一緒にいるって、よく分かったね。あ、メロに聞いた?」
「はい、多少は……。でも私も私のやり方でを探していましたから、メロから聞く前にがメロに見つけ出されたのは知っていました」
「……え、ニアも……私を探してくれてたの……?」
「はい、もちろんです」
その言葉に驚いた。まさかニアまでが私を探しているとは思わなかったのだ。
ニアは軽く微笑むと床に散らばったサイコロを一つ一つ拾いながら、それを重ねていった。
「Lの事を聞いてショックを受けましたが……同時に心配になったのはのことです。それはメロも同じだったようですね」
「………」
「メロは施設を出て探すことを選んだようですが、私は内部から人を集め、Lの捜査を引き継ぐ準備をしながらを探していました。 でもメロの方が一足早かったようです。危険も顧みずマフィアに身を置き、その筋で探す方が早い、と思ったんでしょう。そしてそれは当たりました」
積み上げたサイコロを再び崩すと、その一つを手に取り、ニアは呟いた。
「私は……初めてメロに負けました」
「ニア……」
「メロは感情で動く。故に大事な物を見落としてしまう。私はそう思っていました。でも……のことに限っては、その感情で見つけられたんです」
ニアはそう言うと、手にしたサイコロをコロンと床に転がし、それを指で止めた。
「への……想いの強さが勝ったということでしょう」
「……想いの……強さ?」
「はい。も気づいているでしょう……?メロの気持ちに」
「……っ」
顔を上げ、真っ直ぐに私を見つめるニアの言葉にドキっとした。まさかニアまでもが、そんなことを知っているなんて思わなかったのだ。
(じゃあ……メロは私が気づく何年も前から私を……ニアやマットが気づくくらい、強い想いで私を見ててくれたの……?)
今更ながらにメロの私への想いに気づかされて胸が熱くなった。
「先日……ニューヨークでメロと会った時、少しだけの話をしました」
「……え?」
「私から尋ねたんです。"は元気ですか?"と。何故私がそのことを知っているのか、メロは少し驚いたようですが……でもメロの態度を見て思いました。 メロは……まだのことを愛しているのだ、と。そしてその想いに、いつか必ずは気づく。その時はきっと……メロの想いを受け入れるだろう、と」
「ニア……」
ニアはそこまで言うと、小さく息を吐いた。そしてゆっくりと視線を上げて私を見つめる。
「受け入れたんですよね……?」
「……っ」
ハッキリと口にされて頬が熱くなる。ニアは何もかも分かっていると言いたげに優しく微笑んだ。
あの頃とは違う、少し大人びた顔を見せるニアに、私は小さく頷いた。
「メロが私を探し出して傍にいてくれたおかげで……私は生き返ることが出来たの。それまでの私は死んだのも同然だった……」
「……」
「そんな私をメロは必死で助けようとしてくれた。今も守ろうとしてくれてる……」
「そう、ですか……。では……もメロを愛してる、と……いうことですね」
「……うん。私はメロを愛してる……Lと同じように一人の男性として……メロを愛してるの」
ニアは僅かに目を伏せた。そして一言……「やはり、私の負けのようです」と呟いた。
その言葉の意味が分からず、「負け……?」と首をかしげる私に、彼は「いえ、何でもないです」と苦笑いを零す。
「分からないならそれでいいんです。あの日……がLと日本に発った日……私の声がに届かなかったように」
「ニア……?」
ニアは優しい眼差しで私を見つめた。その瞳はもう、あの日の少年とは違うのだと言いたげに悲しく揺れている。
戸惑う私を見つめながら小さく息を吐くと、ニアは不意に「ここからが本題です」と言って目を伏せた。
「本題……?」
「はい。今日、にここへ来てもらったのは、何も昔話をするためじゃありません」
「あ……そう言えば話があるって……」
電話で話がある、と言っていたことを思い出す。顔を上げるとニアは指で髪をいじりながら静かに口を開いた。
「単刀直入に言います。メロに……キラから手を引いて頂きたいんです」
「――ッ?」
その言葉に私は目を見開いた。ニアは冷静な顔で私を見つめている。今の言葉は本気のようだ。
「そして……そのことをの口からメロに話して欲しいんです」
「え、な……何で……」
「よく考えた結果、これ以上メロに振り回して欲しくない、というのが私の出した結論です」
「……そんな……メロだって本気でキラを追ってるの。そんなこと言えない……私には―――」
「、よく考えて下さい。メロがこれまでに何をしましたか?マフィアに加担し、人を浚い、ノートを強引に奪って今では犯罪者です」
「酷い……確かにメロはやり方を間違ったかもしれない。だけどメロだってあんなことをしたくてしたんじゃないわっ?メロはキラを捕まえるのに必死で――」
「その必死さが問題なんです。これからも何をするか分からない……。だから、あなたに頼んでるんです。メロを説得し、キラから手を引かせて欲しいと」
「ニア……」
先ほどとは違う冷めた表情で淡々と語るニアを見て、私は少なからずショックを受けた。
思想や観念が違っても、生き方や戦い方が違っても、メロとニアには私には分からない強い絆みたいなものがある、と信じていたからだ。
互いの理念は相反していたとしても、それでも二人は互いを認め合っている。
そう思っていたのだ。
なのに……ニアはメロをキラ捜査の邪魔になるとして排除しようとしている。
それは私にとって凄く悲しいことだった。
「……ニア。メロはキラを追うことを止めない。私が何を言ったとしても――」
「いえ。から言えばメロも聞くと思います。大切な人を危険に曝してまですることじゃない、と気づかせればいいんです」
「無理よ……」
「それでははメロが死んでもいいと言うんですか?」
「それは……」
「先ほども言ったようにメロは感情で動く。その行動で自らを危険に曝し、キラに正体がバレてしまう可能性の方がずっと強い。だから言っているんです」
「………」
「は……メロが危険な行動をしていても平気なんですか?」
「平気じゃない……!平気なわけないじゃない……っ。いつも……いつだって……無事な顔を見るまでは心配でたまらないわ……っ」
カッとして声を荒げてしまった。でもニアは冷静な態度を崩さないまま、「だったら尚更メロから手を引かせるべきです」と言った。
それ以上の言葉が見つからず、私は混乱した気持ちのまま。ただ二アの指先で転がされるサイコロを眺めていた。
本心を言えば、理屈では分かってる。私はメロに危険なことはして欲しくない。
出来ればこのまま二人で逃げ出したい、と何度思ったかしれない。
でも……メロの気持ちを考えると、どうしても「やめよう」の一言が言えなかった。
キラの正体も言ってしまえば、メロが暴走することは分かっている。
だからこそ、言えない……。
「……私だって出来ればこんな事は言いたくないんです。ただ……」
「……?」
「いえ……何でもありません」
ニアはそう呟くと、私の肩を掴んで真剣な顔で見つめてきた。
「キラは私が捕まえます。メロがどう思おうと構いません。これは"Lの座を譲る"とメロから言われた、私の仕事です」
「………」
「何としてでも説得してください。そして……二人で幸せに暮らしたらいいじゃないですか。には幸せになる権利があるんです」
「……ニア」
「分かったなら……メロに電話をして下さい。ただし。私に言われた、ではなく、自身で考えたことにした方がいいかもしれません」
ニアはそう言うと私のバッグから携帯を取り出し、こちらへ差し出した。
二アの意思は固いらしい。それを理解しながら携帯を受け取る。
だけどこれまでのメロの苦労を考えれば、簡単に「もうやめて」などと言えるわけがない。
ただ……心のどこかでキラを追うのを止めて欲しい、と思っているのも事実だ。
「どうしました?」
私が迷っているのを見てニアが訝しげな顔をする。
でも結局、答えが出ない。
「ニア……こういう話は直接メロに話したいの。帰ってからじゃ――」
「ダメです。もしそれを許したなら、は多分メロには言えないでしょう。違いますか?」
「……」
「私の目の前で話して下さい」
ニアは私の本心をきっと分かっている。
止めて欲しい。でも言えない。
その感情の間で迷っていることも、その理由も、ちゃんと分かってるんだ。
でも……私が何を言ったところでメロはキラが捕まらない限り、追うことをやめようとはしないだろう。
キラ……夜神ライトが捕まらない限り。
「あ……」
「……?どうしました?」
そこで小さく息を呑んだ。ニアが驚いたように私を見ている。そんな彼を見ながら、私はあることを考えていた。
そうだ……キラが捕まればいいんだ。
そうすれば何もかも終わる。この恐怖も苦しみも、全て………
メロに私の知っている情報を話せばメロは証拠など関係なく、キラ=夜神ライトを追うだろう。
自分の命も顧みず、とことんまでキラを追い詰めるに違いない。
それが怖くて言えなかった。
だけど………ニアなら?
ニアならメロとは違い、Lと同じように、まずは証拠から集め、決定的なものを掴んでからキラを捕まえようとするだろう。まずは自分の安全を確保し、確実にキラが言い逃れ出来ないほど追い詰めながら――。
メロも言っていた。
ニアなら冷静に、無感情に、パズルを解くようにやるだろうと。
「……?」
「ニア……」
「はい」
「もし……キラの正体を教えたら必ず捕まえてくれる……?」
「……キラの……正体?、あなたは―――」
「私はあの時、見てたの」
「……あの時?」
「Lが……死んだ時……私はその場にいた。そこで……見たの。夜神ライトという、キラ容疑でLが拘束してた少年が……笑ったのを」
無表情だったニアの顔が、私の言葉に僅かに反応したように見えた。
「そこで確信した。夜神ライト……彼が……最初のキラ、本人だって。Lは間違ってなかった……私は今もそう思ってるの」
「……そうですか。夜神ライトが……」
「ニア……知ってるの?彼のこと」
何かを得たような顔をするニアに尋ねると、「もちろんです」と応えた。
「私は日本捜査陣と何度か話をし、その中で夜神ライトの名前はあがってきてました。今、日本で"L"と名乗ってるのは夜神ライト……そうですね?」
「多分……ね。あいつはLがいなくなったあと、Lが死んだことを隠してその名前を名乗って表向きだけキラ捜査をしてるように見せかけてる」
「やはり……そうでしたか」
納得するように頷くと、ニアはゆっくりと立ち上がった。どうやらニアの方も何らかの理由で夜神ライトに目をつけ、疑っていたようだ。
「ねぇ、ニア……そこまで分かってるならあの男を捕まえられる?もちろん証拠を集めるのは大変だと思うけど……」
「捕まえます。私は夜神ライトがキラだと疑っていましたが、これでハッキリしました。今後の動きを更に監視しながら目標を固めて捜査出来ます」
キッパリと言ってくれたニアに私は心からホっとした。
―――これでキラを追いつめられる!
でもニアは私を見ると、「ただメロに手を引かせる、ということは守って下さい」と言葉を続けた。
「でも……メロはキラが捕まるまで追うことをやめないと思う……。ニアだって分かるでしょう?」
「ええ……でもが言えば……万が一、という場合があります。お願いですから一度、メロと話してみて下さい。もしダメなら別の方法を考えます」
そこまで言われると、私も何も言えなくなる。仕方なく自分の携帯を開いた。
今頃メロは日本警察の動きを見張ってるところだろう。そんな時に電話をかけて邪魔じゃないだろうか、と思った。
けど、かけなければニアは納得してくれそうもないし、帰してくれなさそうだ。
その時、突然私の携帯が鳴り響き、思わず飛び上がりそうになった。
「……メロからですね」
「うん……」
ディスプレイを見て頷くと、「ちょうど良かったです」とニアは言った。
「では電話に出て下さい」
「分かった……」
こうなれば仕方ない。話すだけ話してみよう。
そう思って通話ボタンを押した。
『……もしもし。かっ?』
「う、うん……」
『……今どこにいるんだ?』
メロの声は少し怖い。怒っているようだ。
「どこって……」
『……さっき携帯にかけたら繋がらなくてアネットに確認の電話したら出かけたと言ってた。今どこにいるんだ?』
「え……っと……それは―――」
『出かける前に誰かから電話が入ってたと言ってたが……誰からだ?』
「ちょ、ちょっと……メロ、そんなに怒らないで……」
メロは本当に心配してるようだ。声からも動揺が伺える。
それには困ってニアの方を見た。
ニアは事情を察したようだ。こっちへ歩いてくると、「代わります」と言って手を差し出した。
「え、でも……」
「大丈夫です。メロにバレたんでしょう?なら仕方ありません。私から話します」
ニアはそう言うと私の手から携帯を奪い、それを耳に当てた。
「もしもし……メロですか?ニアです」
ニアはそう言いながら私の方をチラっと見た。受話器からはメロの驚いたような声が聞こえてくる。
怒鳴られたところで、ニアは冷静な態度を崩さない。
「ええ……私が無理を言ってに来てもらったんです。目的?そうですね。そのことを話そうと思って今メロに電話をしてもらうところでした」
淡々とした口調で言うと、ニアは一つ息を吐いて静かに話し始めた。
『……ニアです』
受話器の向こうからその声を聞いた時、カッと頭に血が上った。
アネットから話を聞き、嫌な予感がして一気に不安になった。その不安は見事的中していたようだ。
どういう事情か知らないが、ニアの奴がを呼び出したらしい。
俺は気持ちを落ち着かせる為、軽く息を吸い込むと「何故、がそこにいる。お前が呼んだのか」と尋ねた。
『ええ……私が無理を言ってに来てもらったんです』
「目的は何だ?」
『目的?そうですね。そのことを話そうと思って今メロに電話をしてもらうところでした』
「何?」
淡々と話すニアに苛立ち、強く携帯を握り締めた。ニアは一呼吸おくと『メロ……』と、静かな声で俺の名を呼んだ。
『あなたには……キラ捜査から手を引いてもらいたい』
「……何っ?」
思わず耳を疑った。あのニアからそんなことを言われるなんて思いもしなかった。
「……どういうことだ」
『どういうも何も、そのまま言った通りです。にはそう頼んでもらえないか、と話をする為、来てもらいました』
「……ふざけるな!そんな下らないことを頼む為にを呼び出しただと?」
『私はマジメに話してるんです。メロ、あなたはキラから手を引いてください』
「……断る!そんなの勝手だろう!お前も好きに捜査しろ。俺もそうする。それだけだ」
『いえ、それでは私が迷惑するんです。これまでもメロの行動のおかげで随分とかき回されましたし』
「……勝手なことを言うな。オレがノートを奪ったおかげで死神の存在も、嘘のルールがあるってことも知ることが出来ただろう。なのに何を今更―――」
勝手な言い分に腹が立ったが、ここで感情を剥き出しにすれば相手の思う壺だ、と必死に堪える。
ニアがどういうつもりか知らないが、どうやら冗談ではなく本気でキラの首を独り占めする気らしい。
『どうしても……手を引いてはもらえませんか。を危険に曝すことになってもキラを追い続けるんですか?』
「には指一本触れさせない!必ず俺が守ってみせる!」
『では……メロ、もしあなたがキラの手に落ちたら?』
「……何?」
『そう言う可能性もあるでしょう。これまでのようなやり方で行くのなら』
淡々と話すニアの喋り方が気に入らない。何もかも見透かしたような言動をするコイツが、昔から嫌いだった。
「……オレがキラに殺される、と言いたいのか……?」
『その可能性が高い、と言っているんです。そしてそうなれば誰が一番、悲しむんですか?』
「……」
『……本当は分かっているんでしょう?このままキラを追うことにどんなリスクが付きまとうのか』
「……うるさい。ニア、お前はとことん嫌な奴だな」
『私もそう思います。では……どうしても手を引かない、と言うんですね』
「断る……お前の指図は受けない……俺は俺のやり方でキラを捕まえると決めたんだ」
怒鳴りたいのを必死で堪える。ニアは暫し黙ったあと、小さく溜息をついたようだった。
『そうですか……残念です。では……私が動くしかないようですね』
「どういう意味だ……」
『……キラは私が捕まえます、メロよりも先に』
「……好きにしろ。前にも言ったはずだ。どちらが先にキラに辿り着くか、競争だとな」
『そうですね……分かりました』
ニアはそう呟くと、でも、と言葉を続けた。
『……は暫く私がお預かりします』
「な……っ」
『メロと一緒に行動すれば彼女も危険な目に会う可能性があります』
「……ふざけるな!!何の権限があってそんなことをするっ!」
『何もありません。なので勝手に拘束させて頂きます』
「……ニア!を返せ」
『……イヤです。でも、もしメロがキラから手を引く、と言うのなら今すぐにでもお返しします』
「……っ!を人質にする気か!」
『……人質とは違います。私はの身の安全を保証しているだけですので。今は私の方が彼女を守れます』
あまりに勝手な言い分に激しい怒りが込み上げてくる。一気にそれが爆発しそうだ。
だけは誰の手にも渡したくない。
たとえ昔の仲間であっても、それは同じだ。
「今すぐを解放しろ。そもそもは納得してるのか?電話口に彼女を出せ」
『お断りします。それに今、彼女は別の部屋で休ませています。事情はこれから話しますが、納得してもらうつもりです』
「……いい加減にしろ!俺からを引き離してお前に何の得がある?!ワケの分からないことを言うなっ!」
『損得の問題じゃありません。私が心配していることはただ一つ。彼女の身の安全、そして……彼女の今後の幸せです』
「……何?」
『メロ、よく考えて下さい。あなたはもう気づいてるはずです。私が言いたいことを―――』
「――おい……!!」
そこで唐突に電話が切れた。苛立ちを収めるのに目の前の椅子を蹴り倒す。
ガタンッと壁に当たり、激しい音と共に古ぼけた椅子がバラバラになる。
それを見ながらクソ!と思い切り毒づいた。
「言いたいことだと……?ふざけるな……ニアのやつ何言ってるんだ……っ」
さっきまで堪えていた怒りがという存在を奪われたことで一気に溢れてくる。
ニアの行動がサッパリ分からない。どうして今になって俺に手を引けと言うんだ?
何故、を奪ってまでそれをオレに納得させようとする?
意味が分からない。
スピーカーからは相変わらず、能天気な女の声が聞こえてきて、思わずヘッドフォンをぶっ壊したくなった。
ここまで来て手を引けるか。
少しずつキラに近づいてる気がするというのに。
髪をかきむしりながらソファへ座ると、握り締めていた携帯を放り投げた。
もう一度かけなおそうかとも思ったが、どうせニアによって電源は切られてるだろう。
もし繋がってたとしてもを出してくれるはずもない。
「……何故ニアなんかに会いに行ったんだ……」
頭を抱え、そうボヤいてみても彼女を責めることはできない。
にとっては、ニアだってあの頃、あの場所で一緒に過ごした仲間なんだ。
彼女は毎日一人でいるニアことを気にかけ、いつも心配してた。
キラを追ってるのはニアも同じ。も時々オレに聞いてたくらいだったし、きっと心の中では心配してたはずだ。
そんなことは分かってる……だけど――。
が自分の手の中にいないことが、こんなにも不安なのだと。この時、俺は改めて実感していた。
「え……?どういうこと?」
メロとの電話を終え、私が押し込まれた部屋に戻ってきたニアが言った言葉に驚き、一瞬、聞き間違いかと思った。
「ですから、には暫くここにいてもらいます」
「な、何言ってるの……?イヤ……メロのとこに帰る」
「ダメです。メロにも電話でそう言いました。は暫く預かると」
「……か、勝手なこと言わないでよ!」
ニアの言葉についカッとなって大きな声を出してしまった。なのにニアは気にする風でもなく、部屋の中に設置してあるベッドに静かに腰を下ろす。両足を上げ、抱えるようにして座るその動作が、一瞬Lと重なった。
ニアは立ったままの私を見上げると、「……分かって下さい」と言った。
「メロに分かってもらうためです」
「……何を?キラから手を引くこと?だから私を人質にするって言うの?」
「少し違いますが、でもそう思いたければそう思って下さって結構です」
「……何で?何でここまでしてメロから手を引かせたいの?前は別々でも互いにキラを追うって決めたんじゃないの?」
「……そうですけど。少し事情が変わりました。とにかく……今はを帰す気はありませんので」
「な……待って……ちょっとニア……!」
言いたいことだけ言うと、ニアはそのまま部屋を出て行ってしまった。無常にも目の前でドアが閉まり、押しても引いてもびくともしない。閉じ込められたんだと気づき、私はその場にしゃがみこんだ。
「何で……?何でこんなことするの……」
一気に身体の力が抜け、私は深く息を吐き出した。携帯も取られたままではメロにかけることすらかなわない。
それに、例えかけられたとしてもこの場所をハッキリ説明できないのだ。
「メロ……」
名前を呟くと気が緩んだらしい。一気に涙が溢れてくる。
勝手な行動をした私をメロは怒ってるだろうな、と思うと胸が痛んだ。
でもまさかニアに拘束されるなんて思ってもみなかったし、しょうがない。
「はあ……アネットも心配してるんだろうな」
彼女に何も言わずに出てきてしまったことを思い出し、後悔した。メロはアネットから聞いたと言ってたけど、メロが知らなかったのではアネットも不安に思ってるかもしれない。
(あとでニアに頼んでアネットにだけでも電話させてもらわなくちゃ……)
そう思いながら分厚い扉を見上げた。これなら防音もシッカリしてそうだし、叫んでみた所で無駄だろう。
仕方なくベッドに突っ伏すと、思い切り顔を埋めて泣きそうになるのを必死に堪えた。
メロの顔が浮かんで、会いたさで心臓が痛くなる。
「ごめんね……メロ……」
静かな部屋に私の呟きだけが空しく響いた。
「いいんですか?こんな強引なやり方をして」
「……いいんです。メロもそのうち気づくでしょう」
心配そうな顔のジェバンニにそう言うと、彼は「そうかなぁ」と頭をかいた。
「あのメロがそう簡単に理解してくれるなんて思えませんけど」
「……以前のメロならそうでしょうけど……今は少なくとも分かってくれると思います」
「まあ……大切な人のことを考えたなら……そうでしょうね」
ジェバンニがそう言いながら隣にある部屋を見た。私も一緒に視線を向けてはみたが、特に中からは何も聞こえてこない。
も諦めた、ということだろうか。
本当ならこんな強引なやり方はしたくなかった。
でも……とメロが同じ気持ちになってしまったのなら、もうそんな悠長なことを言ってもいられなくなった。
軽く息を吐くと床にしゃがみ、転がったままのサイコロを手に取る。
その時、電子音が響き、レスター捜査官が私を呼んだ。
「ニア、マットから電話です」
「……分かりました」
そう言って通話の為のボタンを押すと、"M"という文字がモニターに映る。
「マット。何の用ですか?」
『おいおいおい……何してくれてんだよ、ニア』
「……何がです?」
相変わらず軽い口調で話すマットに溜息をつきつつ、椅子に座る。彼とはメロに内緒で何度か連絡を取り合っていた。
と言っても、別に彼がスパイをしてたわけじゃない。
最初に連絡してきたのはマットの方で、ただ"懐かしくて話がしたかった"だけだそうだ。(私はちっとも懐かしくはないのだが)
メロとのことを教えてくれたのはマットだった。
『お前、無茶しただろ。メロ、すんごい剣幕だったぜ?』
「……そうですか」
『そうですかって、そんな冷静に言われても……まあ昔から冷静だったけどな、お前は。でも俺にまでとばっちり来るんだし、あんまりメロを刺激するなよ』
「刺激してるつもりはありません」
『してるだろ?を浚うなんて何してるんだよ。俺がメロとのこと教えたからか?』
「半分そうですけど、私は浚ったつもりはありません。暫くの間、預かる、と言ったんです」
『同じことだろ?メロにしたら……やっと両思いになったってのにその直後に離れ離れって……まあニアがを守ろうとしてるのも分かってるけど』
「なら心配しないで下さい。メロがキラから手を引いてくれさえすれば、すぐにでもはお返しします」
『だから、それがメロを刺激してるって言ってる。そんな強引なやり方でメロが素直に言うことを聞くと思うのか?あのメロだぞ?』
マットは大げさに溜息をついている。その直後、カチっという音がしたところをみれば、どうやら煙草を吸っているようだ。(相変わらずヘビースモーカーのようだ)
「分かっています。でも……黙って見ていられませんでした。メロが暴走するのは勝手ですが、まで巻き込むことになるのなら仕方ありません」
『……まあニアの気持ちも何となく分かるけどさ』
「話はそれだけですか?なら、もう切りますよ。私は忙しいんです。マットの暇つぶしに付き合ってる暇はありません」
『おいおい、相変わらず冷たい奴だな……。とにかく俺が言いたいのは……なるべく早くをメロの元に返して―――』
「ですから、それはメロ次第です。それまでは私の傍においておきます。その方が安全ですからね」
『そりゃ、そうだけど……あ、分かった。ニア、お前実はメロに嫉妬してこんな強引に―――』
ドン!!と拳でボタンを殴ると、ブツッという音のあとにツーツーツー…とおかしな音が鳴り響いた。
「……ニア……あまり強く叩くと壊れますが……」
「……分かっています!」
私の行動を見て隣にいたレスターが冷や汗をたらしている。ジロっと睨めば素早く視線をそらされ、私は息を吐き出した。
「……少し一人になります。何かあれば呼んで下さい」
「は、はい……分かりました……」
私はそのままオモチャを抱えると、自分の部屋へと入り、すぐに鍵を閉めた。
一人になった途端、深い溜息が洩れてそのままベッドへ上がる。
枕元にオモチャを放り投げると、ゴロリと寝返りを打った。隣はの部屋だがやけに静かだ。
彼女のことを思うと少しだけ胸が痛んだ。
今頃、私のことを怒りながらフテ寝でもしているんだろうか。
そんなことを考えながら、過去にそういったことがあったのを思い出し、ふと笑みを零す。
あの頃、Lとケンカをするたびは自分の部屋に引きこもり、フテ寝をすることが多かった。
当然、Lは焦り、何度も謝りながらドアをノックする。
それでもなかなか顔を出してくれなくて、ある時、Lは痺れを切らして勝手に合鍵を使い部屋の中に入ったことがあった。
するとはベッドにうつ伏せ状態のまま、本当に寝てしまっていたらしい。
あのあと、Lは「その姿がまるで子供のようでした」と笑って教えてくれたのだ。
そんな彼女が本当に好きだったんだろう。Lはの話をするたび、いつも優しい目をしていた。
そして私はそんな話を聞くたびに、自分までもがLと同じように、のことを想っているような、そんな錯覚に陥った。
Lがあまりにも幸せそうに、愛しそうに、彼女の話をするものだから、その想いが伝染したのかもしれない。
気づけば……いつしかのことを一人の女性として意識するようになっていた。
この気持ちは誰にも話したことはない。
もちろんにさえ気づかれることはなかった。
でも私はそれでもいいと思っていた。
彼女にはLがお似合いだとすら思っていた。
それは今も変わらない。
でも……はメロを愛してしまった。
Lの死から立ち直り、また大切な人が出来たのだ。
それはそれで、安心した。
あれだけの辛い思いをしたが、心配でたまらなかったから。
もう二度と人を愛せないんじゃないか、と、心配だったから。
でもそんな彼女を……メロは立ち直らせ、生きる希望を与えた。
どれも私には出来なかったことだ。
だからこそ……私はメロにキラから手を引いて欲しかった。
に生きる希望を与えたのはメロだ。メロの愛情では立ち直ることが出来た。
だからこそ……メロがからその希望を奪ってはいけないのだ。
大切な人の死――。
そんな不安を彼女にもたせちゃいけないのだ。
メロにはその義務がある。
もう二度と、を絶望という闇に落とさないよう、自分の命を守る、という義務が――。
出来ればキラのことなど忘れて、二人であのイギリスの片田舎に戻って欲しい。
そして……二人で幸せに暮らして欲しい。
そんな優しい未来を、私が守るから――。
その未来に僕は居ない―けれど。
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