※軽めの性的描写があります。



こんなに優しいキスをしたのは初めてだった。
闇夜に輝く青白い月に照らされていた。
細い首筋に、白い胸元に、口付けて触れるたび、何度も夢じゃないかと彼女を確認する。部屋の温度が低いからか、の肌は冷んやりとしていて。これが現実なのか夢なのか、と何度も俺を不安にさせた。

「メロ……」

甘く切なげに名前を呼ぶ彼女が愛しくて、胸の奥が苦しい。
ただ愛しくて、愛しすぎて苦しいなんて、こんな想いがあると知らなかった。

……」

声が掠れるほど、この想いが体中を焦がしていく。
愛しい、愛しい、愛しい――。
その想いが尽きることはなくて。何故、これほどまでに彼女が欲しいのか自分ですら分からない。
彼女へのこの想いが、俺の全てを狂わせるから。

L――。
貴方も彼女を抱きながら……こんなにも狂おしいほどの愛情を持て余していたんだろうか。
抱いても抱いても足りないほどの愛情を。
俺の夢は決して叶うことなどない。そう、思っていたのに。



⌘ ⌘ ⌘



深く互いの唇を求め合いながら、メロの体を抱きしめた。
もう離れないで……もう離さないで。
心の奥から溢れてくる感情がいっそう私の身を焦がしていく。
ポッカリとあいた心の隙間が今、メロの想いで溢れていくのを感じた。
どれほどの愛情をその心に隠してたの?どのくらい私を想ってくれてたの?

……」

何度も私を呼ぶその声が掠れるくらい、メロも心を焦がしてくれてるの?
もどかしいと言いたげに乱暴に服を脱がしながら、唇を肌へ這わせていく。メロの大きな手が私の体に触れるたび、全身が焼かれるような熱さを感じた。

「細すぎて……怖い」

腰に腕をまわして耳朶に口付けながら、メロの言葉が吐息と一緒に洩れる。

「壊してもいい……怖がらないで触れて」

一瞬、私に触れることを躊躇したメロに、もう一度深く口づける。
どうなってもいい。このままメロと、どこまでも溶け合えたらいいのに。

「……んっ!」

乱れた服の合間にさらされた胸の膨らみを舌先で翻弄される。強引に脚の間へ滑り込む手が、メロの余裕のなさを教えてくれる。それでも慣れたキスを受けるたびに、チクリと嫉妬の痛みが胸に走った。だってそれは私以外の女性に触れてきたという証だから。
自分のことを棚に上げて過去にまで嫉妬をするなんて愚かだろうか。
それを言えばメロは怒るだろうか。
でも、それでも思わずにはいられない。
私以外の女性にもう二度と、触れないで欲しいと。

「あ……メ……ロ……っ」

甘い刺激と共に、メロの指が中へ吸い込まれるのを感じて体が跳ね上がる。キスは激しいのに、その優しい手の動きに僅かな理性も消えてしまいそうになった。体中にメロの唇が触れて、何かを確かめるように愛撫していく。

「あんまり煽るな……ホントに壊しそうだ……」

あまりに苦しくてメロの体に手を伸ばすと、切なげな声がかすかに聞こえた。
それは本当にいいのか、と確かめるように甘く。それでいて悲しい響き。

「メロ……愛してる……」

少しでも伝わるように、心の一部を口にする。
本当は足りない。こんな言葉ではきっと。

「だから煽るなって……」

強い力で私の体を抱き起こすと、メロは覆いかぶさるように唇を重ねた。

「ホントに……壊すぞ……」

そう呟いたメロの表情は、私が知らない彼のもう一つの、男の顔。

「出来るだけ……優しくしたい……」

ベッドへ押し倒して私の首筋に顔を埋めた瞬間、紡がれた言葉に涙が溢れた。

「――ん……っ」

メロがゆっくりと入って来た時。痺れるような甘い痛みが体中に走った。
Lを失って以来、誰とも肌を合わすことのなかった体が素直に痛みを脳へ伝えてくる。

「痛い、か……?」

少し苦しげな息を吐きながらも、メロが酷く心配そうな顔で私を見つめるから慌てて首を振った。
この痛みは私のLへの愛の証でもあり、そして……メロへの愛の証。
こんなに深く暖かい愛情を、私は二人から受け取ったのだ。

「メロの方が……つらそうだよ……」

腰を推し進めるたびに苦しそうな吐息を吐くメロが心配になる。

「……苦しい?」

薄く開いた唇にそっと指を這わせると、メロの体がびくりと跳ねた。

「……バカ……煽るなって……言っただろ……」
「……んっ」

――これでも……我慢してるんだから。

そう呟いたのと同時に奥まで入って来た熱。全身が痺れるくらいの感覚が襲う。
メロと一つになれたことが純粋に嬉しくて、また涙が頬を伝った。

「痛いか……?」
「……ううん……幸せすぎるだけ」

思ったことをそのまま口にすれば、メロが照れたように視線を反らした。そんなメロが愛しくて、私からも触れたくなる。メロの頬へ手を伸ばすと、その手を強く握られた。

「メロ……?」
「言葉じゃ……足りない。 が――愛しすぎて……」
「……メロ……」

ううん、それは私の方なの。こうして心も体も繋げてるのに、それでもまだ足りないほどに……愛してるのは私の方なの。
だから何度でも私の全てを奪ってくれたら……それでいい。

「……ずっと……俺の傍で笑ってて」

苦しそうな声を最後に、私はメロの熱に飲み込まれた。体を激しく揺さぶられるたび、少しづつ痛みが和らいで甘い疼きが体中に走る。私は何度もメロの名前を呼び続けながら彼を強く抱きしめた。
抱きしめていないと不安だった。またこの腕から愛しい温もりが消えてしまいそうで。
死神がまた、私の大切な人を奪っていきそうで。

青白い月明かりが私たちを照らしている。その明かりの中に見えたメロの苦しげな表情が、また狂おしいくらいの想いを溢れさせる。縋るように名前を呼べば、重なる唇と唇。
その熱でこれまでの痛みも、苦しみも、全てが溶けていく。
メロの激しい想いが私の中へ流れ込むのを感じた時、薄れていく意識の中、Lの優しい微笑を見た気がした――。



⌘ ⌘ ⌘



ふと熱が引いた体に冷たい空気が触れて、ゆっくりと目を開けた。かすかに開いた窓から風が入り込み、カーテンが揺れている。青い月夜は未だ光を降り注いでいて、俺は僅かに目を細めた。
そこで小さく息を呑み、隣を見る。そこには夢じゃない現実が、無邪気な寝顔を見せていた。

「夢じゃ……なかったんだ」

全身が気怠いを堪えてゆっくりと寝返りを打つ。俺の腕の中で眠る、この世でたった一人の最愛の女性。
薄く開いた唇は艶やかに光っていて、嫌でも誘われてしまう。誘われるがまま、起こさぬように彼女の唇へそっと口付けた。

「ん……」

ゆっくり唇を離すと、はかすかに寝返りを打った。ふと視線を落とせば彼女の白い肌に散らした赤い刻印が浮かび上がっている。
ほんの少し前まで抱き合っていたのに、彼女の温もりを思い出すとまた体が熱くなる。
それと同時にこれまで感じたこともない幸福感が俺を包んだ。
触れることはないと思っていたの肌に、気が狂いそうなほど溺れた。
幸せすぎて怖くなるほどに。
こんな日が来るなんて想像すらしていなかった。
彼女の意識が飛ぶまで求めて、追い詰めてしまったことを少しだけ後悔しながら、深く眠るへ再び口づける。
その熱にまた胸が痛くなった。

――この4年間、眠りから覚めるのが辛かった。目覚めた瞬間に思うの……Lはもういないって……。目が覚めた瞬間から、また私の闇が始まるの。だけど不思議ね……数週間前からそれが頭に浮かばなくなったのよ。

眠りにつく直前、朦朧とした意識の中でそんな言葉を聞いていた。
L……あなたは今、どんな思いで俺たちを見下ろしてるんだろう。
怒っているのか、それともホっとしているのか。
今の俺には分からない。
でも……今の俺に出来うる限り、彼女を守って二人で生きていくから。
だから……。

「……見守っててくれよ、L……」

月を見上げて呟いた。
この声は彼に届いただろうか。

「メ……ロ……」

小さな声に呼ばれ、腕の中で寝返りをうつに笑みが零れる。自分がこんなにも穏やかに笑えるんだということを、今更ながらに思い出した。

「……どっちが年上なんだか」

子供のようにすがり付いてくる彼女に胸の奥が熱くなる。
愛しくて、愛しくて、抱いてる時、何度も死ぬかもしれないと……そう思った。

「ったく……俺を殺す気か……」

そっと彼女の前髪を避けて、そこへ軽く口付ける。かすかにが微笑んだような気がして。



君に殺されるならそれも良いかと、少しだけ本気で思った。

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